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解 説

日本食文化への評価を成果に
磨いた商品力と自負が成功へ導く

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  今回、登場していただいたそれぞれの経営者の活動領域は、これまでの地場中小企業の枠を超えている。高橋商店(調味液)と石橋屋(こんにゃく)は、すでにヨーロッパへの進出を終えており、南米やインドを視野に入れている。島本食品(明太子)は、既存業界では製造拠点としての捉え方が多かった韓国を潜在力の高い市場と見据えている。その経験をもとに、ハラル市場―すなわちイスラム圏進出を見据えている。
  広域への進出・浸透は、各社の地道な取り組みが実を結んだ結果に違いないが、日本の食文化への評価の表れでもある。世界の有名シェフがこぞって取り組む食材「YUZU(ゆず)」は、日本語そのままの発音で通用するという。ただ、それでも高橋社長は「発信不足」と嘆く。奥行きや歴史、深さなど、すばらしい食文化を持ちながら、世界に求められる情報が打ち出されていないのが実情だという。そのため、精力的に各地に伝え回る一方で、日本古来の素材を活かした新商品づくりにも打ち込む。
  石橋屋はこんにゃく業界が価格競争へ走るなかで、手づくりに回帰。高い付加価値の商品を定着させ、国内市場で一定の地位を確立している。それでも海外に取り組むのは、「イノベーションは異なる価値観から生まれる」という信念があるからだ。同社の商品の1つ「こんにゃく麺」は、そうしたなかで生み出された。欧米人の食欲をそそるとされる赤・黄・緑の色使い、食べやすい星型の断面などは、国内市場に専念していては生み出されることはなかった。麺の食感と低カロリーを実現させた同商品は、女性を中心に、国内での需要も急速に拡大している。
  両社とも、商品の品質・評価は揺るぎない。それを裏付ける自負心が、海外攻勢への歩を進めている。目先の結果を求めなかったことが奏功しているのも、共通している。波多江氏を含めて、生半可な取り組みでは成功しないことを体験し、「安易な進出は窮地を招く」と警鐘を鳴らす。各社とも、国内では通常経営の環境も悪化していることを感じとっている。制度や法律の足かせは、ますます負担になっていくことが予想される。海外とのギャップを考えれば、生産拠点を現地へ切り替えるのは時間の問題だろう。経験組ほど、外の比重を高めつつある。
  食分野では加工食品だけでなく、飲食業などでも成功事例は少なくない。味・品質管理・ホスピタリティなど、日本の食文化への信頼感を考えれば、進出への条件は他業種よりもはるかに恵まれている。実際にそこに気付いた企業が、続々と挑戦を始めた。中小企業による“九州発の世界ブランド”が登場しようとしている。

(鹿島 譲二)