荒廃竹林が宝の山へ
     夢のある六次産業の実現

タケノコ農場
タケノコ農場

(株)クローバー食品

2007年から08年にかけて、食品業界の安全性を失墜させるような不祥事が相次いだことは記憶に新しい。07年には、北海道で食品加工卸業者によるコロッケの原料牛肉偽装問題が発覚。また、菓子メーカーでは、賞味期限の改ざん問題が明るみに出て問題になった。翌年には、大阪の米穀類製粉・加工販売業者が、事故米穀を非食用として仕入れておきながら、食用として転売していたことが判明した。こうして、日本の食にまつわる安全神話が崩壊するなか、タケノコ業界でも同じような不祥事が相次いだ。しかし、タケノコの水煮を中心とした加工食品の製造・販売会社である㈱クローバー食品は、消費者が安心できる商品づくりを貫いてきた。業界の不祥事さえ、同社にとっては企業理念をゆるぎないものにする出来事であった。

安心して食べられる
国内タケノコを

  牛肉や海産物などの食品偽装事件が多発した08年ごろ、タケノコ業界でも、安価な中国産のタケノコの水煮を国産と偽って販売するメーカーが次々と見つかり、食品の産地に対する消費者の関心が非常に高まっていた。クローバー食品では、この時期に、金属検査やX線検査などをはじめとした厳重な検査体制を設け、トレーサビリティ(生産履歴)が確認できる体制を確立させた。自社商品のチェック体制を厳しくすることが、消費者の安心に繋がると判断したためである。
  また、トレーサビリティだけでなく、安価な中国産だけに頼らず、国産のタケノコを自社調達する方法を模索した。幸いなことに、本社がある大分県豊後高田市周辺には、放置され、荒れた竹林が多く存在していた。そこで同社は、「整備してタケノコを収穫するので、土地を貸して欲しい」と土地の所有者に持ちかけた。
  そもそも竹というのは根を深く張らない植物である。そのため、豪雨のときなどは、斜面の竹林全体が滑り落ちるように崩れる危険性があった。つまり、この提案は土地の所有者にとっても魅力的なものであった。
  こうして同社は、竹林整備を引き受け、地域の水害対策を行なうとともに、産地が明確なタケノコを入手することに成功した。

農業参入で
イノベーションを起こす

  竹林整備を進めていると、この試みが、大分県の実施する「一村一品運動」の対象になることが判明した。そこで、伐採した竹にも注目した。竹チップは、肥料などとして利用することが可能である。3年で減価償却できると判断し、大分県と豊後高田市から補助金を受け、森林組合で古い竹をチップにする機械を購入し、荒廃した竹林の整備に取り組んだ。その後、食品加工などを中心に行なうクローバー食品の関連法人として、農事組合法人JAPANクローバーを設立するに至った。
  JAPANクローバーは、クローバー食品で加工するための国産タケノコや野菜を栽培・収穫することを目的として設立された。荒廃竹林を借りては、整備を行ない、自社での有機タケノコの生産を拡大していった。
  取り組みが拡大してくると、全国的な注目を集めるようになり、竹林活用を考える所有者が、全国各地から視察に訪れるようになった。そこで、荒廃竹林の整備方法などをレクチャーし、採取したタケノコをクローバー食品で買い取るようにした。同レクチャーの受講者たちは、自分たちでも整備しようとした経験があるため、完全な素人ではない場合がほとんどである。よって、比較的早く技術を習得し、この取り組みが拡大する要因になった。現在では、鹿児島県や福岡県など、大分県以外でも見られる。
  元々は加工食品の製造・販売をしていたクローバー食品。しかし、JAPANクローバーがタケノコ生産に参入してからは、ゴボウやニンジン、サトイモ、ダイコン、ジャガイモなど、ほかの野菜の生産にも取り組んでいる。もともと農業が起源ではないため、既存の農法などに囚われることなく、効率的な生産方法を模索できたのも大きい。これは同社の強みだろう。
  例えば、タケノコを加工する際には、余分な皮がかなり発生する。焼却処分するのが普通だが、量が多いのでコストが馬鹿にならない。ウシのフンに混ぜて、放置するとタケノコの皮が発酵して、肥料になる。同社では、野菜を生産するときは、このオリジナル肥料を活用しているという。
  また、同社は、野菜の加工技術が優れているため、かたちの悪い野菜であっても、切り方を変えるなどして惣菜や加工食品用として使うことができた。通常なら廃棄処分となってしまうような野菜でも、JAPANクローバーや契約農家が生産した野菜はすべて、同社が買い取っている。業務を拡大しても、分担化を明確に行なうことで、無駄なく生産ができているという。

農商工連携と
六次産業化

  このように社内で、努力と創意工夫を重ねた結果、JAおおいたとタイアップして商品開発を手がける機会も得た。JAおおいたでは、農薬や化学肥料などを極力少なくした農産物をつくっている。しかし、「規格外」という理由で使用されない農産物も数多くあった。これらの野菜の処理をクローバー食品が引き受け、加工。多用途に使える下茹で野菜パックを開発した。この取り組みは、2010年3月に国の農商工連携の認定を受けいている。
  この連携により、JAおおいたでは、限られた労力で収益の改善ができるようになった。他県の例に漏れず、農業従事者の高齢化が進む大分県にとっては、嬉しい成果となった。また、クローバー食品にとっても、大分県産野菜のブランド化で販路を拡大し、収益アップに繋がった。
  その後、JAPANクローバーで収穫された農産物は、クローバー食品で、水煮だけでなく、大分県産のタケノコやサトイモなどの根菜類と同様に味付け惣菜加工をして、新商品として小売店へ直接販売をされるようになった。農産物の生産から味付け惣菜加工までの一連の取り組みで、六次産業化の認定を受けた。六次産業とは、農業本来の第一次産業だけでなく、ほかの第二次・第三次産業を取り込み、有機的・総合的結合を図る一次、二次、三次の足し算であるとの考え方。11年3月に、六次産業化法が農林水産省により施行。農商工連携との違いは、農商工連携支援は商工業者と農林水産業者の連携体を支援対象としていることに対し、六次産業化支援が農林水産業者を支援対象としていることだ。
  今後、JAPANクローバーは、さらに品目も増やしながら、効率の良い農業を極めつつ、3年間で大きく黒字化することを目指している。新たに農業にチャレンジする一般企業だからこそ、既存の方法に囚われない斬新な発想ができる。また、そういった価値観が農業の未来を変える可能性も秘めている。
  しかし、いくら業態が変わっても、クローバー食品とJAPANクローバーが農業、加工、商品開発まで含めて、一貫して消費者に安心・安全を提供することを目的としていることに、変わりはない。

(柚木 聡美)

COMPANY INFORMATION
㈱クローバー食品
代 表:鴛海 良一
所在地:大分県豊後高田市玉津1544-3
創 業:1974年9月
資本金:1億円
TEL:0978-24-0363
URL :http://www.clover-foods.co.jp/index.html

河野和幸圃場
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