抱えた分譲地の特損計上に悩む積水ハウスと分譲住宅分野で攻勢をかけるタマホーム

　9月1日、積水ハウスは2009年1月度決算連結純利益見通しを対前期比21％減の480億円に下方修正すると発表した。従来予想は560億円。売上高も従来予想の1兆6,600億円から1％減の1兆5,800億円に下方修正した。これは6期振りの減収となる見通しだ。

　同社は木造住宅（シャーウッド＆マスト）や賃貸住宅（シャーメゾン）などの受注は好調だが、分譲住宅の販売が20％近く落ち込んでいることやマンション事業の販売の落ち込みが大きい。
同社の吉満副社長が主導した東京ミッドタウンや赤坂ガーデンヒルズ等の都市開発事業の収益でコア事業の戸建住宅販売の苦戦を補ってきたが、併せて『持続可能な街づくり・サスティナブルタウン構想』に基づき積極的に分譲住宅用の土地購入にも取り組んできた。
　ここ3年間ほどはその戦略が功を奏したかに見えたが、ここに来てミニバブル崩壊による土地価格の下落が始まり所有宅地の評価損計上を余儀なくされ始めた。

　2009年1月期決算中間期にあたる7月の中間決算では分譲宅地開発予定の減損で8億円を計上したが、今後の経済情勢の厳しさを勘案すると下期は更なる減損を計上せざるを得まい。この上半期の決算では吉満福社長が主導した『赤坂ミッドタウン』の持分売却効果により不動産事業の売上総利益率は30％近く収益を押し上げたが、それでもコア事業の鉄骨戸建事業の落ち込みをカバーしきれない。もしもこの状態が2,000億円以下の企業ならば危機的な状況であり、これまでのストックがあるからこそ持ちこたえているのだ。
　阿部新社長もようやく全国の事業所巡りを終え、これからの戦略構想を植え付けていく時機に入ったわけで、如何にして和田会長のこれまでの事業政策や人事面での欠陥を解明し修正していくかにかかっている。
　全国的には戸建の不調をカバーしているはずの低層集合住宅（シャーメゾン）部門であるが、九州地区に関しては過去3年前までの絶好調期が嘘のように低迷している。

　話は変わるが、これまでの積水ハウスの受注好調は紹介販売比率が60％超を維持してきたことに尽きる。この中で取引業者（施工業者・納入メーカー等）および工場の社員及び委託業者らに支えられてきた。
　この間積水ハウスの営業担当者は新規顧客の開拓よりは協力工事店等の事務所巡りをしておれば受注に辿り着いていたのだ。そうして年収1,000万円～1,500万円程度の年収を確保してきた。それだけではない！　新卒女子社員の夏の賞与支給額がいきなり80万円強だったりしたのである。一方、施工店の社員の給料や職方の年収は下がり続けて今や400万円台を確保できるかどうかまで漸減している。

　しかし、営業担当者のフットワークの衰えに加え従来同社の紹介・成約マシーンであった施工業者、職方・メーカーの体力が予想以上のスピードで疲弊し始めている。
　選挙で言う集票マシーンが壊れ始めているのである。
　この1年前まで積水ハウスの社内では飛ぶ鳥を落とす勢いで、一躍副社長にまで上り詰めた吉満副社長も（これら販売用不動産の高値買いの責任追及なのか、今後の成長部門とみて和田前社長が会長職として収奪したのかは不明だが）ここのところ元気が無く表舞台に姿を現す機会が少ない。

　その一方で、中規模の住宅会社が3,000億円の壁を突破できずに業界から潰え去ってきた礫に嵌まり込むのではないかと一抹の危惧を感じていたタマホームが、今年１月の階段の踊り場を脱し再び上昇気流に乗り始めた。
　取得不動産の減損計上や投げ売りまで覚悟を決めつつある積水ハウスに対し、タマホームは従来の戸建住宅一本釣り営業に加えて分譲住宅部門の拡充へ乗り出した。
　こちらは第2次不動産価格の下落に応じて分譲住宅部門に乗り出す。
　長崎、福岡県・宗像市等で30区画前後の分譲住宅販売を企画している他、大阪でも宅地購入を交渉中だ。

　また、2011年開通の九州新幹線・新船小屋駅の建設予定地を取り囲むようにして分譲住宅地を仕込み済みである。まるで攻守が逆転してしまったかのような経営戦略であるが、もともと日本人は柔よく剛を制すとか、判官びいきとかいう気質を持っている。
　これからの両社の戦略の機微を見ていくのも楽しいし、企業戦略作成の参考にもなるのではなかろうか。