（20）奴隷貿易の島で　その1

　アフリカと奴隷貿易は、切っても切れない関係にある。とくに、アメリカ大陸に近い西アフリカの港は奴隷の積出港の跡が各地に残っており、中には世界遺産に登録された場所もある。ニジェール人と話をすると、奴隷の話が時々出てくる。積出港となった沿岸部のように豊富な資料は出てこないが、自分の先祖がアメリカに連れて行かれたということは多くの人が知っている。
　一昨年の６月、私は研修でセネガルの首都ダカールへ向かった。セネガルという国をご存知だろうか。初出場でありながら2002年の日韓ワールドカップで前回優勝国フランスを破り、ベスト８まで輝いたといえばなんとなく覚えている人もいるかもしれない。優勝フィーバーの時には、ケガ人が出るほどの盛り上がりだったという。セネガルは元フランス領で公用語はフランス語。首都はダカール。世界一過酷な自動車レース、パリ・ダカールラリーのゴールと聞けばピンとくる人もいるだろう。
　フランス語が公用語なだけあって、セネガルの大西洋沿岸はフランス人の観光客を相手にしたリゾート地が多く、ダカールにはフランス人が多い。また、「星の王子様」で知られるサン・テグジュペリがセネガルとフランスを行き来する飛行士だったことなど、フランスとの関係をいろいろな場所で感じることができる。
　私が来訪した２年前は、郊外に多くの住宅地が建設されつつあった。途上国がまさに発展しつつあるという熱気を感じたものである。ダカールに日本食の店はないが、なぜか看板にお寿司の写真が貼られている韓国料理屋さんはあった。ダカールは大西洋沿岸に位置し、緯度が低いにもかかわらず寒流が流れているため、平均気温は27℃と日本人にも過ごしやすい環境である。
　ダカールは日本の中小都市並のインフラ整備がなされており、停電も少なく快適である。首都と地方の格差が格段に開きつつあり、どの発展途上国が持つ大きな問題に直面している。ちなみに青年海外協力隊でダカールに住む人はわずか３人しかいない。これはダカールと地方の生活環境がまったく違うことによる。内陸部に行くと平均気温は40℃を越え、インフラ整備も整っていない地域が多く厳しい。

　セネガルに到着して次の日、セネガルで働く隊員とともに、ダカールの西方沖合いに浮かぶ小さな島「ゴレ島」へ向かった。ここはかつて奴隷貿易の中継地点だった場所である。
　ゴレ島まではダカールから定期船が出ていて、ダカール港からは20分ほどの場所である。
島に到着すると、「本当にここは奴隷貿易の島？」と思わせるぐらいの観光地化がされていた。ヨーロッパ人が商売をしていただけあって地中海風の建物が続き、観光客相手の絵描きや民芸品がならぶ。奴隷貿易の島は、今は芸術家の島のようだ。

【廣瀬】

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