<第六章 谷本頭取の時代>
クーデター未遂事件(13)
谷本は、
「実は植木頭取の独裁的な経営に対して不満を持っている役員は多くいるが、そうは言っても反旗を翻すだけの理由がないので、仕方なく従っている取締役が大半だと思っている。
昨年私の任期満了に際して、もし改選されなければ植木頭取に交代を迫ると言って協力してくれた皆に感謝している。あの時はたまたま再選されたのでなにごとも起こらなかったが、今回急に任期途中の退任を要請して来たことは、協力してくれた皆に対する申し訳ない気持ちで一杯と同時に、今回の植木頭取からの退任要請は理不尽だと思う気持ちが非常に強くなってきている。それはまさに植木頭取の焦りでもあり、崩壊の兆しであると思う」
と、自分の考えを淡々と述べた。
続けて、
「私の退任を要求してきたことを親しい取締役3名に相談したところ、"このままの植木体制ではもはや維新銀行は持たないとの認識と、何とか頭取交代により新しい組織を構築しないと他行に後れを取るとの焦燥感を赤裸々に述べ、最後に谷本専務を退任させるのはおかしい"と言って、昨年に引き続き退任反対に協力すると言ってくれた。後は君達4人が賛同してくれるかどうかだが、その辺、竹下常務の方はうまくまとめてもらえるかね」
と竹下の顔をまじまじと見つめてその反応を待った。
竹下は、
「もちろんです。私を入れて4名は谷本専務のお陰で組合の三役に推薦してもらった恩があります。そのお陰で役員にもなれたわけですから、今度はそのお返しですから任せて下さい。3名については必ず賛同するように話をつけてきます。別に植木頭取を多数決で罷免するわけでもなく、要は頭取就任が18年と長いので、頭取職を谷本専務に禅譲してもらい、植木頭取に代表取締役会長に就任してもらうことを提案すればよいことであり、むしろ顧客からも維新銀行の行員からも順当な役員人事として好意的に評価されると思います」
と、自信に満ちた声で返事をした。
谷本は
「それでいこう。竹下常務にはご足労をかけるが3人の賛同者を纏めて下さい。その後僕の方からも協力依頼の電話をするようにします。8名の賛同者が確実に固まれば、笹川常務を呼んで話し合いをする予定です。それが決裂するようであれば取締役会での動議提出になるかもしれないが、何とか話し合いによって、円満に頭取交代の話を勧めたいと思っている」
と話し、二人は連れ立って東京支店の近くにある料亭に繰り出していった。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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