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神々の宿る島・壱岐「響きあう魂たち」(2)
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2012年9月11日 10:00

 2012年現在、島を訪れる観光客たちは、壱岐が「半漁半農で自給自足が可能な島」と聞いて感心する。本来、国内で採れるはずの農作物でさえも大量に国外から輸入している日本の農業の在り方に、疑問を感じている人はとくにそうだ。東日本大震災以後、自然と共生する暮らしは、今やぜひとも手に入れたいテーマとなっている。

 もちろん、壱岐で自給自足の環境が確立されたのは、離島がゆえに、いざというときに備えてライフラインを保持しなければならなかった、という事情もあろう。しかし、やはり観光客の問いに答える壱岐の人々の顔は、自分たちで作物を育て、魚を捕り生活を切り盛りすることができる、という自信に満ち溢れているように見える。

hirayamaryokan.jpg 平山旅館の女将、平山宏美氏は、その代表的な人物だ。もともとは福岡県田川市出身。根っからの壱岐っ娘ではなかったが、壱岐に嫁ぎ女将家業に精を出すうちに、すっかり壱岐に魅了されてしまった。「最初、私の夢は、平山旅館を、安心安全な食材を使ったお料理が提供できる宿として知ってもらいたいということでした」と平山さんは語る。
 しかし、一旅館の女将としての願いが徐々に膨らみ、今や「身体を動かし、手間隙を惜しまず土地に働きかければ、壱岐の土壌は美味しい食材を私たちに与えてくれます。そんな壱岐という島の素晴らしさを全国に、全世界に広めたいのです」という、大きな夢になった。

 その夢の実現のために、たゆまない努力をした。旅館周辺の畑を借りて有機栽培農法に取り組み、軽トラックを運転しては朝市に出かけ、新鮮な魚介類を吟味する。それらを宿泊客をもてなす料理に使った。仕入れたばかりの魚介類や、採れたての野菜を使った朝食は美味しい。平山旅館の噂は口コミで広がっていき、「朝食が美味しい旅館」として全国でも評判になった。それを機に、自家栽培した無農薬野菜をレストランや割烹に卸したり、平山さんの考案した鯛茶漬けを大手企業に採用してもらえるようにもなった。TVで見たから、と宿を訪れる人も多いという。
 しかし平山さんは常に謙虚で、いつもと変わらぬ明るい笑顔で皆に接し、島での滞在を楽しんでもらうために尽力する。記者が、大まかに壱岐を知ろうと日帰りで島を縦横断し、思ったより広いと驚くと、「まあ!壱岐は1日で見て回るものじゃないですよ!今度はぜひ寄りなさい!」と声を上げて笑った。そんな温かな人柄に惹かれて、リピーターになる人も多いと聞く。元気者で有名な松岡修造氏は「平山女将は壱岐のパワースポットだ」と、平山さんを称した。本当にパワーのある女性である。

 そのように夢を膨らませる過程には、家族からの温かな支援もあった。平山旅館の料理人でもある夫からは、「外出するなと言われても言うことを聞かないでしょう、貴女は」と苦笑された。だからこそ平山さんも思い切り活動できる。そしてそれらの活動と平行して、平山さんの思いは、地域ぐるみで壱岐の魅力を発信する方向へも広がっていった。足繁く朝市に食材の仕入れに行くのは、常に壱岐の農産物や海産物に目を行き届かせるためでもある。そして、本当に壱岐島以外の地域に出しても意味があり、価値がある素材を厳しく選ぶ。鯛茶漬けなどのように商品化したものは、壱岐の有志の発案で生まれた通販ネットサイト『壱岐もの屋』で販売をしている。仲間と『壱岐和蜂研究会』に参加して巣箱で和蜂を育て、かわいい小瓶に入った蜂蜜もつくった。安心で安全な野菜を収穫するために、オーガニック認定取得にも挑戦。やっと取得できたときは、本当に嬉しかったという。常に良いものを島外に発信し、提供する。平山さんをそんな行動に駆り立てるのは、「壱岐には理想的な『循環型社会』を構成する素材がそろっている」と確信したからだ。

 栽培を始めたばかりの頃、パプリカにはミドリカメムシがたくさんたかった。しかし、土が元気になるにつれて、次第に虫がいなくなった。そこでさらに土壌を豊かにするために、工夫して改良してみた。山から腐葉土を運び、海女さんに分けてもらったウニの殻を雨にさらし、日にさらしたあと小さく潰して土に混ぜる。家畜も飼っているので、堆肥も充分にある。湯垢も貴重な鉄分とミネラル分の宝庫だ。梅の木を虫の害から守るために、幹に海藻を巻いてみたりもした。たまには思うようにいかないこともあったが、大体において、壱岐の自然は人間の努力に一所懸命に応えてくれる。

 「壱岐は本当に恵まれた島です。気候も温暖だし、水も豊富です。東日本大震災以降、人々は安心、安全な暮らしを切望しています。そして、自然と共生しながら生きたいと、多くの人々が望むようになりました。今、この島であれば、有機の循環型社会のモデル地域を目指せるのではないでしょうか」と平山さんは語る。安心・安全な暮らしを守ることにこれだけ世の中が敏感になっているのだから、全国に、全世界に明るい可能性を示すことができる島になれるのではないか、日本中の人々が心に深い痛手を負った2011年、平山さんの思いはますます募った。

(つづく)
【黒岩 理恵子】

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<COMPANY INFORMATION>
■(株)平山旅館
所在地:長崎県壱岐市勝本町立石西触77番地
TEL:0920-43-0016
URL:http://www.iki.co.jp/


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