2024年04月20日( 土 )

急増する「暴走老人」、困った高齢者たち(前)

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大さんのシニアリポート第46回

 人間年を重ねると丸くなる、というのは真っ赤な嘘だ。とにかく頑固になる。頑固を通り越して自分のことがわからなくなる。他人の存在を無視し、自分の考え方を押しつける。意味もなく(多分、本人には意味が存在するのだろうが)喧嘩を始める。決して譲ろうとしない。こうした高齢者を最近数多く見かける。若者の犯罪件数が下げ止まりなのに反して、高齢者が起こす事件が年々右肩上がりだという。何がそうさせるのか、実例を挙げて検証したい。

 私の住む地域の近くに、高齢化率50%を越す「限界団地」があることは以前紹介した。団地の中央にあるスーパーで買い物した高齢者が坂を登り切れず、今年90歳になる自治会長がカートを押して登り切ったという笑えない話が伝わる超高齢者の住む団地である。自治会の役員の中に認知症と思われる人がいて、何かとクレームをつけるものの、大半が的外れで失笑を買う。昔の肩書き(会社の)に固執して、「上から目線」で役員にアレコレ仕事を命じる。本人に周囲の雰囲気を読み込む能力はないから、際限なく続く。「始末に負えません」と自治会長は自嘲気味に話す。今春、新役員のN氏と副会長のR氏が衝突。役員会は修羅場と化した。

img N氏は、「Rは副会長でありながら仕事をしない」と細かな事例を取りあげ責める。R氏は実務に長け、緊急を要する仕事は夜中でも現場に駆けつけて問題を処理する。口べたで、自分の正当性ばかりを主張する性格ではない。自治会長と他の役員は、裏方に徹することを好むR氏の性格も仕事ぶりも熟知している。感謝こそすれ、否定する人はいない。R氏の仕事ぶりを知らない新役員N氏は、とうとうR氏の無能ぶりを書状に書き連ねて、掲示板に張り出そうとしたところを自治会長に咎められ、もめた。R氏は、「もし、掲示でもしていたら、この団地にいられなくなったでしょう」と胸をなで下ろした。しかし、N氏の怒りは収まらず、ついに2度目の役員会で爆発。R氏に襲いかかり、間に入った役員に取り押さえられるという”事件”にまで発展した。R氏は心を病み、その後役員会に顔を見せていない。

 「困ったもんです。頑固で、自分の考えを変えようとしないどころか、間違っていないと言い張るんです」と困惑気味の自治会長なのである。私の周囲でも、「順番が待てない」「注意されてブチ切れる」「会話の途中でいきなり怒鳴り出す」。こうした意味不明の”怒り”が爆発して喧嘩になるケースを最近目撃する機会が多くなった。その大半が高齢者なのである。

 「急増する高齢者の暴力」(NHK総合『あさイチ』7月1日放送)の中で、「暴走老人」の実態を紹介している。65歳以上の高齢者の検挙率がここ10年で、傷害が9倍、暴行にいたっては実に48倍に急増。その原因が不明であるという。とくに暴力事件の起きやすいのが病院だ。ある私大病院の医療従事者で過去1年間に、暴言や暴力を受けた経験がある人は44.3%もあった。暴言は50歳代が一番多く(24%)、次に60歳代(21%)の順。暴力は70歳代(24%)、60歳代(22%)、50歳代、80歳代と続く。暴力事件を未然に防ぐために警察OBが常駐する「院内交番」を設置した大学病院まで現れた。

「院内暴力」を起こした患者の中に、某一流企業の会長だった人がいたという。院内病力に詳しい筑波大学三木明子準教授によると、「特権意識があり、自分は特別な人物なので、順番でも、治療でも特別待遇を要求。それがときには暴力で要求を通そうとする」と分析する。コンビニの弁当にサービスで付けたおしぼりが、そのことを知らない別のレジ係が付け忘れたのを、「今日は付いてない」と激昂した高齢者。電車が遅れたことに立腹した70歳代の男性が、「時間を返せ!」と駅員を罵倒し続けたなど、「暴走老人」の実例を紹介した。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 

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