2024年04月25日( 木 )

「バングラデシュの少女を救う」シャプラニールの挑戦

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 「バングラデシュの少女たちは、“家事使用人”というかたちで休みのない労働を強いられています」。こう語るのは、国際協力NGO特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会(東京都新宿区、岩城幸男代表理事)の前ダッカ事務所長である藤崎文子氏だ。一体どういうことなのか。その過酷な実態と、少女たちを救う挑戦について聞いた。

偶然知った“家事使用人”の実態

シャプラニール前ダッカ事務所長で、今年8月に東京事務所海外活動グループチーフに就任した藤崎文子氏<

シャプラニール前ダッカ事務所長で、今年8月に東京事務所海外活動グループチーフに就任した藤崎文子氏

 藤崎氏のバングラデシュとの出会いは20年以上前にさかのぼる。

 「私はアジアがとにかく大好きで、よく旅行していました。大学時代は外国語学部で国際関係などを学び、卒業後は自動車メーカーに就職。アジアのマーケット担当になりました。そのころ、フィリピンで自動車普及が引き起こす環境問題を目の当たりにし、5年後も自分が車を売る姿が想像できなくなったのです」(藤崎氏)

 さらに、学生時代訪れたインドで子どもたちが置かれている厳しい労働環境が思い出された。「それは本当に衝撃的でした。海外でゆっくりご飯を食べられる自分がどんなに幸せかと。彼らは選択肢が限られている一方で、日本は頑張れば報われる社会です。世界から見たらとても恵まれていることだと気づきました」と、藤崎氏は振り返る。
 そこで、現地で1人ひとりの顔が見える仕事をしたいと考え、97年にシャプラニールに入職。それ以来、バングラデシュとネパールを中心に活動してきた。

 そんな藤崎氏によれば、バングラデシュでは家庭が貧しいといった事情で、33万人もの少女たちが他人の家に送り出され、“家事使用人”として働かされているという。
 「バングラデシュは日本以上に保守的で、女性は社会に出ても仕事の選択肢が極めて少ないのです。縫製業は盛んですが、仕立ては計算が必要ですから、教育を受けていない女性は“家事使用人”がほぼ唯一の労働形態と言ってもいいでしょう。また、送る側の親の心情としては、年頃のかわいい娘が悪い男に狙われないようにと、少しでも裕福な家庭で監視のもとで働いてもらう方が安心できるという側面もあります」。

 およそ7割が14歳以下の少女だが、雇用主への食事の準備、洗濯、買い物から子どもの世話まで時間に追われて学校に行く暇もない。その上、雇用主から暴力を振るわれることもあり、ひどいケースではレイプされたり、死亡事件まで起こってしまうという。そんな実態を知った親は「こんなことになるなら送り出すんじゃなかった」と後悔の念を漏らす。それだけ情報が外に伝わらず、これまで隠された事実だったのだ。

 藤崎氏がそんな実態を知ったのは、ストリートチルドレンの支援活動をしているときだった。ストリートにいるのはなぜかほとんど少年で、少女が見当たらない。そこで、少女のストリートチルドレンに「これまで何をしていたの?」と聞いたところ、「人の家に雇われて家事をしていた。でも、あまりにも仕打ちがひどかったから私は逃げてきたの」という衝撃の事実を口にしたのだ。

教育で未来の選択肢を広げる

youjotati そんな環境を少しでも改善すべく、シャプラニールでは基礎教育などを受けられる支援センターを06年からこれまでに4カ所開設。現在はダッカ市内2か所でセンターを運営しているが、来年4月から3カ所目を開くため、クラウドファンディングを使って新たな支援者を発掘し、さらに支援の輪を広げようとしている。

 「センターでは1年半のカリキュラムを組み、ベーシックなレベルでベンガル語、算数、英語を、ほかに保健衛生や家事も教えます。一定の教養が身に付けば仕事の上で失敗も減り、雇用主にもメリットがありますし、彼女たちも仕事でミスをして雇用主からの暴力を防げ、評価も向上して給料アップや転職など、将来的に選択肢が広がります。何よりもできることが増えるのが、彼女たちの楽しみとなり自尊心を持つことにもつながります」(藤崎氏)。

 今年7月、首都ダッカでカフェが襲撃され、日本人も巻き込むテロ事件が起こった。NGOの活動は制限が一層厳しくなったが、シャプラニールではそんな状況下でも次の世代を担う子どもたちを支援すべく国際協力にまい進している。

■クラウドファンディング「過酷な児童労働からの解放へ バングラデシュの少女たちに教育を!」

<期 間>
2016年12月20日(火)午後11時まで

<目標金額>
310万円(12月3日現在で62%達成)

<URL>
https://readyfor.jp/projects/girls_education

<COMPANY INFORMATION>
所在地:東京都新宿区西早稲田2-3-1
代表理事:岩城 幸男
設 立:1972年9月

▼関連リンク
・バングラデシュで40年支援活動「取り残された人々」を見つめて(前)
・バングラデシュで40年支援活動「取り残された人々」を見つめて(後)

 

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