2024年04月26日( 金 )

『食』を通じて熊本復興に臨む~RESTART KUMAMOTOの挑戦(中)

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RESTART KUMAMOTO

 熊本地震からまもなく1年。さまざまな復興イベントやボランティア団体が活躍するなか、熊本の“食”を通じて中小企業の復興復帰を目指すプロジェクト“RESTART KUMAMOTO”も奮闘している。同プロジェクトでは、熊本の中小食品企業同士が個人ではなくチームとして活動を行い、熊本復興のために何をするべきか何ができるのか、どのような課題があるのかなどを皆で共有して活動するプロジェクトである。――同プロジェクトのプロデューサーであり、流通コンサルティング業「ITOU企画」の代表である伊東正寿氏にお話しを伺った。

【聞き手:中尾 眞幸】

“風化”に負けず1歩ずつ取り組む

 ――プロジェクトを進めるなかで、課題もあるのではないでしょうか。

 伊東 熊本地震だけに関わらず、他のエリアでの地震・震災等でもいえることですが、一番大きな問題は“地震が起こった”という事実に対して、人の心が風化していくことです。震災直後はメディアなどでも大きく取り上げられ、ボランティアの方々が現場で活動されたり、復興支援のイベントが複数行われます。イベントでは、商品を買って少しでも熊本を応援しようという方も多い。しかし時間が経ち、メディアでの露出も減少してくると、だんだん人々の関心が薄れていってしまいます。この“風化現象”が我々の最も恐れるところです。先程も申し上げました通り、震災からの復旧・復興は少なくとも10年近くは必要で、とても1年や2年で叶うものではありません。どの震災でも“風化現象”は見られますが、とくに今回の熊本地震の場合は風化が早いと感じています。そして一番風化が進んでいるのは、実は熊本県内ではないかと思います。震災直後は非常に強かったお互いに助け合うという意識が、この1年足らずで、ある程度軌道に乗ってきた方たちを中心に離れていっているように感じます。もちろん、自分たちの生活や経営の立て直しに必死で、なかなか他のことまで手が回らないという状況があるでしょう。しかしせっかく1つになって頑張ろうとしていた思いが散り散りになるのは非常に残念ですし、熊本復旧・復興の遅れに繋がる可能性がある。

 風化問題は、RESTART KUMAMOTOにも表れています。本来はメンバー全員で活動を進めていくべきですが、「救われた命を熊本のために活かしたい」という思いが風化し、「誰かがやってくれるだろう」という意識に変化してしまう。結果、リーダーなど一部の人に任せがちになってきているのが現状です。同時に、当プロジェクトは法人ではなくあくまでボランティアのようなかたちですので、拘束力がなく、活動費用もすべて自分たちの手出しとなります。人々の意識が薄れるなかでしっかりと計画を持続させていくためにも、今後は法人化することも検討する必要があるのではとも思っています。そうすることできちんと組織体制を整え、動きをスムーズ化することに繋がると考えられますので。

 また、復興支援イベントや商品を置く小売業の姿勢にも疑問を感じています。本来、本当に熊本復興支援を考えるのであれば、商品仕入れを担当するバイヤーが実際に現地に出向き、地域や企業の状況や商品を実際見たうえで、「小売としてどんな支援ができるか」ということを考えていくものです。今の熊本復興支援は“熊本”や“くまモン”を枕詞に置き、熊本の商品を集めることで、とりあえず「熊本復興」のかたちに見せ、お客を集めるイベントになっている。どちらかというと、小売り側のためのイベントのようになっています。本来は熊本のになっている。どちらかというと、小売り側のためのイベントのようになっています。本来は熊本の中小企業や生産者が今現在できる範囲に小売業が合わせ、お互いに歩み寄ることで、最終的なコストや無駄・無理を落としていく形があるべき姿だと考えます。そして、その歩み寄りができる小売業が今後、地域と共に伸びていくのではないかと思います。
 ただ、鹿児島や宮崎の百貨店や量販店さんのなかには本当に丁寧な対応をしていただき、低い料率で催事や定番導入をしていただいた小売業さんもありました。

 私はよく「五感で感じる」とバイヤーさんたちに説明しますが、今の小売業は机の前でデータや情報ばかりで考えすぎている。そうではなく、みんなが頑張ろうとしている姿を見てイベント主催側、小売業側が“売って支援したい”と考えるのが正しい復興支援ではないでしょうか。プロジェクト名の“リスタート”には、熊本だけでなく、商品を売る小売業もリスタートさせていくという意味もあるのです。

 プロジェクトリーダーとはよく、“GIVE-GIVE-GIVE(=与えて・与えて・与えて)”という姿勢で、“TAKE”を求めないと話します。課題は多いですが、私たちが下を向いているわけにはいきません。食品展示会での周知により、少しずつですが効果は出てきています。地道な活動だからこそ長い時間が必要ですが、1歩ずつ、1つずつ、1人ずつ、広げていきたいと考えています。

(つづく)

【文・構成:中尾 眞幸】

<プロフィール>

伊東 正寿(いとう・まさとし)
1967年3月、大分県生まれ。熊本県在住。(株)寿屋に約10年間勤め、デイリー・グロサリー担当、本社企画担当などを経験。その後(株)ハローデイに入社、商品部にてバイヤーリーダーを務める。2010年10月、ITOU企画を設立。培った経験を活かし、九州の食品流通コンサルタントとして九州内のバイヤーや商社に企画提案などを行う。また、バイヤー、商社向けのオリジナルセミナーなども複数開催する。

 
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