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2017年05月19日 11:10

さまざまなセーフティネットを知ろうとしない高齢者(前)

大さんのシニアリポート第54回

 いつもの「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)の常連客の話。今年の1月から2月にかけ、高齢夫婦と独居高齢者の緊急搬送に関わった。高齢夫婦は施設への入居まで、一命を取り留めた独居高齢者はアフターケアまで行った。2組とも子どもとの縁が薄く、ほぼ見捨てられた状態だったことも報告した。認知症や寝たきりになる確率が非常に高い常連の高齢者自身、「自分の身は自分で守る」という意識に欠け、興味も示さない。何故?

 「ぐるり」(前身は「幸福亭」)を運営して今年で10年になる。5月27日(土)に、ささやかな記念パーティを開く。10年で2万人以上の来亭者があり、30人ほどの利用者が施設などに入居され、鬼籍に入られた。「ぐるり」のコンセプトは、「現場主義」である。「現場で起きている問題を直視」し、「解決法を模索」。方針が確認されたら、「解決に向けて努力する」ということだ。そのひとつに「見守り」がある。「居場所にくることが見守りになる」とか、「隣近所と仲良しに」という行政の常套句ではなく、「ぐるり」の常連客同士で互いを見守る「ハッピー安心ネット」を立ち上げて久しい。中身はこうである。

ハッピー安心登録カード
※クリックで拡大

 「仲間の1人が身体に異変を感じる」→「他の仲間に電話」→「現場に急行」→「部屋に入る」(事前に解錠)→「本人に状態を聞き、必要と判断した場合、119番」→「救急隊に状態を説明」→「搬送後、本人帰宅または病院より連絡があるまで待機」→「本人帰宅後、状態を確認して帰宅」→「翌日も訪問して今後の方針を確認」。事前に提出された「安心カード」(身内の連絡先などが記されている)を開封して、連絡する場合もある。これをスタートして2年目に、私が仲間の1人を救出した実績を持つ。当然参加は希望者のみ。事前に説明会を開き、十分に説明したうえで、参加者を募る。スタート時は20人の参加者があり、前出のようにそれなりの成果を上げることができた。独居高齢者にはとくに必要と痛感したのだろう。

 しかし、「ぐるり」の場所を隣接するURの空き店舗に移し、再スタートしたものの、参加者がゼロなのである。場所を移転すれば入亭者の顔ぶれも変わる。「孤独死」を声高に叫んでも、誰も自分のこととして理解しようとしない。それどころか、「孤独死、孤独死といっていると、誰もここに来てくれないわよ。誰だって、孤独死したいと思わないもの」と忠告を受けるありさまだ。

 再オープンして間もなく、入亭者の生活情報を入手しやすくするために、パンフレットを入れるスタンドを購入。市役所や社協、公民館などに置いてあるチラシを集め、スタンドに入れて利用してもらったものの、入亭者はスタンドに興味を示さない。窮余の策として、2つのテーブルに厚手のビニールシート(透明)を敷き、その下に重要と思われるチラシを挟み込み、嫌でも目につくようにした。要望があれば、スタンドにある同じチラシを差し上げる。しかし、目を通しても誰も「欲しい」とはいわない。今ではテーブルの肥やし(模様)として空しく眠り続けている。

チラシを入れたスタンド

 スタートして2年目に、「冷蔵庫作戦」なるものを提案した(小樽市の民生員の考案を模した)。これは透明な筒に必要事項(掛かり付け医、病院、病名、薬、身内の連絡先など)を記入した用紙を入れ、冷蔵庫のドア内ポケットに入れる。目印として、冷蔵庫の側面に赤色の磁石をつける。救急隊が冷蔵庫にある用紙を確認し、救急搬送時に有効活用(搬送の時短になる)してもらうためだ。実際、市の消防本部に話を持ち込んでみたのだが、「見つけられなかった場合、誰の責任になるのか」と一蹴された苦い経験を持つ。その後この案件が市議会で採択され、福祉部で実物を業者に委託。できあがった商品を見せていただく機会があったので、いくつかの注文をつけた。私が考えていたのは、100円ショップの片栗粉入れ(小樽も同様)で十分。「余分な出費を抑える意味でも利用すべきだ。無償提供の代わりに提供社名を入れればいい。市民には有償提供する。その資金を“見守りファンド”にして活用すべき」と提案したものの、提案は却下された。この「救急医療情報キット」が市報で紹介されると、それなりの反応があったという。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

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