2024年04月20日( 土 )

トランプ大統領のアジア歴訪と習近平総書記の対米戦略(5)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 北京においては、今回どのような習近平・トランプ会談が展開されるのか。先の党大会において、2期目の政権を発足させたばかりの習近平氏だが、更なる長期政権を目指しているようだ。トランプ大統領自身も様々な批判はあるものの、強いリーダーとして再選を目指す意向を明らかにしている。

 ビジネスマン出身のトランプ大統領にとって、再選を確実にする上では、北朝鮮のもたらす脅威の存在は好都合と言えるだろう。何をしでかすかわからない北朝鮮の動きに対し、中国とも連携するしないにかかわらず、日本や韓国などの同盟国の安全を守るという姿勢を鮮明に打ち出すトランプ大統領。安倍首相とも馬が合うようで、「100%、日本を守る」と気前が良い。

 北朝鮮が企てるミサイル攻撃を防ぐためと称して、アメリカは日本や韓国にミサイル防衛システムの売り込みに余念がない。「PAC3」や「THAAD(サード)」、そしてイージス艦や地上配備の「イージス・アショアー」、更には先制適地攻撃を可能にする最新鋭のF35爆撃機など、アメリカの経済を支える軍事産業にとっては、北朝鮮の脅威こそ起死回生のビジネスチャンスとなりつつあるわけだ。中国にとっても、アメリカにとっても、北朝鮮の脅威は都合よく使えば、自国の利益を拡大できる「宝の山」なのである。であるならば、日本で懸念が深まりつつあるような朝鮮半島有事はあくまで米中双方がレッドラインを織り込み済みの「頭の体操」ということであろうか。

 アメリカ国務省で25年間、諜報分野を担当し、現在、ワシントンの軍備管理協会の役員を務めるグレッグ・ティールマン氏曰く「PAC3もTHAADも命中精度は低く、北朝鮮からのミサイル攻撃には役に立たない。しかし、金正恩はアメリカと戦えば、自国の消滅は避けられないことは百も承知。よって戦争の可能性は低い。その可能性をなくすためには宇宙から北のミサイルを打ち落とすレーザー兵器の配備が欠かせない。その技術をアメリカは開発しているが、実戦配備には膨大なコストがかかり、採算が合わない」。

 要は、北朝鮮の脅威を無力化できる技術はあるが、ビジネスとして採算に合わないため、アメリカの軍需産業が潤うレベルで北朝鮮の脅威を飯のタネにするのが得策というわけだ。ビジネスマンらしいトランプ大統領の発想にはピッタリなのだろう。「100%守る」とおだてられ、1基800億円のイージス・アショアーを複数基購入するという安倍首相。これでは、いつまでもアメリカのカモでしかない。日本独自の防衛戦略と技術開発へ発想の転換を図る時であろう。

(了)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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