2024年04月20日( 土 )

福岡を代表する老舗菓子舗の4代目、新たな100年に向けての次なる挑戦(中)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

(株)石村萬盛堂 石村 善之亮 代表取締役社長

100年以上愛されるヒット商品・銘菓「鶴乃子」

 ――私もいろいろな業種を見てきましたが、たとえばファッション業界などと比べても、菓子業界のほうがよりたくさんの開発を行い、そのなかで成功する例―大ヒット商品が生み出されることが少ないように思います。商品開発に次ぐ商品開発を行いながらも、日の目を見る確率が低い業種というのは、お菓子以外にはあまりないのではないでしょうか。

 石村 おっしゃる通りで、世間に商品として出して日の目を見る前に、弊社の商品として発売するかどうかという、その時点でふるいにかけられてしまいます。いろいろと試作を重ねながらも、納得のできる商品ができなければ発売には至らないというケースもあります。

 ――その一方で、他社でもヒット商品について「どのようにしてヒットしたんですか?」と尋ねても、なかなか明確な答えは返ってきません。ヒットした理由がわかっているのであれば、第2、第3のヒット商品が次々と生まれてきてもよさそうなものなのですが。

 石村 言葉は悪いですが、たまたまと言いますか、運の力に依るところが大きいように思います。少しのきっかけだとは思うのですがね。最初から意図していたことではなく、本当にちょっとしたことで、大きくヒットしたり、逆にまったく売れなかったりと、結果が大きく左右されてしまうように思います。

 ――そうした経営の“運力”というのは大きいですね。御社もこれまで、「ホワイトデー」といった日本全国を巻き込んだブームであったり、数々の話題になるような商品を生み出してこられました。しかしそのなかでも、やはり「鶴乃子」のヒットが際立っているように感じます。

銘菓「鶴乃子」。季節限定商品などのバリエーションのほか、新たに角形のパッケージも登場

 石村 おかげさまで「鶴乃子」は、単品で年間10億円ほどの売上はあると思います。「鶴乃子」はもともと、創業者である石村善太郎が、卵の黄身を原料とする鶏卵素麺の製造過程で余ってしまう白身をマシュマロにして、中に黄身餡を入れて発売したのが始まりです。以来、福岡・博多で100年以上愛され続ける銘菓となっており、福岡を代表する土産菓子の1つとして皆さまに認知していただいています。昨年には創業111年を記念して、「もっと皆さまに召し上がっていただきたい」という思いと「次の100年につなげる」という意味を込めて、この「鶴乃子」を“ふんわりやさしい甘さ”へと13年ぶりにリニューアルしました。これまでのブランドや知名度にあぐらをかくことなく、皆さまに愛される「鶴乃子」をこれからも追求していきます。もちろん、それ以外の新商品の開発に関しても、怠ることなく、常に取り組んでいかなければならないと思っています。

二極化する市場でいかにパイを獲得するか

 ――現在の市況については、いかがでしょうか。たとえば今は、海外から来られるお客さまも多いとは思いますが。

 石村 全体としての市場は、海外からのインバウンド客の影響もあって、伸びてはいると思います。ですが、国内市場というのはやはり“勝ち組”と“負け組”とに明確に分かれているのではないかと感じています。
 たとえばここ福岡においても、「東京から」とか「北海道から」とか、そういった他地域からきたお菓子屋さんがものすごく行列をつくって大人気になったりしています。そういった部分でも、単品の主力商品にパワーがあるお店はすごく強いと思いますね。業界として、売れるところはものすごく売れる一方で、売れないところは全然売れないというような、二極化が顕著になってきたような印象を受けています。

 ――やはりこちらの受け皿側の問題もありますね。たとえば北海道の新千歳空港と、福岡空港とでは、利用客数でいえば福岡空港のほうがやや多いようですが、空港の売上高では新千歳空港のほうが福岡空港の倍以上となっています。福岡空港でも販売施設の面積を確保するなどして、もっと利用客に見合っただけの売上高を上げられるようになれば、御社にも恩恵があるのでしょうが。市場が少しずつ伸びているなかで、御社がどのようにパイを獲っていくか、そのためにはどういう商品をつくっていくか――ということになるのでしょうか。

 石村 空港の場合ですと、やはりメインは土産物としての需要になりますので、土産物としてどのような商品が好まれるかということになってくると思います。
 今、弊社としては、主力商品である「鶴乃子」を打ち出していこうとしています。やはり売上というのは置かれているスペースで決まってきますので、いかに押し込めるかというところになってきますね。売り場がいくつもあるわけではありませんので、限られたスペースでなるべく商品を切らさないように、お店の方とのコミュニケーションを取っていくことを心がけています。もちろん、置いていただくスペースが広がればそれに越したことはありませんが、もっと気にかけて棚を見ていただくとか、そういった営業努力は行っています。
 また、従来の「鶴乃子」のパッケージは、お馴染みの丸いかたちのものでしたが、より売り場に置いていただきやすくするために、四角の箱型のパッケージも新たにつくっています。

(つづく)
【文・構成:坂田 憲治】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:石村 善之亮
所在地:福岡市博多区須崎町2-1
設 立:1949年2月
資本金:9,500万円
売上高:(17/6)約60億円

<プロフィール>
石村 善之亮(いしむら・ぜんのすけ)
1979年5月、福岡市中央区出身。修猷館高校、東京大学文学部卒。2008年に有限責任監査法人トーマツに入社。17年4月、(株)石村萬盛堂入社。同年7月、同社代表取締役社長に就任。

 
(前)
(後)

関連キーワード

関連記事