2024年04月26日( 金 )

どんな荒波も乗り越える結束力 社内改革で社員が輝ける環境整備へ(後)

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(株)益正グループ

 1993年11月、博多駅前に「居酒屋レストラン益正」を開業後、福岡県内で複数の飲食店を展開する(株)益正グループ。時代の変化にともない栄光と挫折を経験してきた同社だが、脱・居酒屋の取り組みで業績は回復基調にある。創業者であり、現在も現場の最前線でリーダーシップを取る草野益次社長に現在までの取り組みと今後の戦略を聞いた。

一度は断念、悲願の上場へ 業界の悪しき慣習を壊す

はかたの海鮮と名物料理「益正 大名店」

 困難に直面しても基本に立ち返る姿勢と、草野社長のリーダーシップで乗り切った。次に視野に入れるのが悲願の株式上場だ。2年前には株主に対して、一度は断念した上場を目指すことを公言した。「5年後に上場準備ができる状態まで持っていく」と説明したという。現在はその準備段階にある。「たしかに7期連続黒字だったが、前期は赤字となった。前期1年で悪いことが起きたので、こういうこと(減収や赤字決算)が起きても大丈夫なようにしなければならない。今期に入って既存店のメニューを見直し、社員の労働時間も減らし、週休2日間を実行している。すべては社内環境の整備と上場準備のため」と語る。

 12月には同社のホームページのリクルートページに“飲食業界をぶっ壊す”を大々的に掲げる予定だ。「飲食業界の悪しき習慣を壊していこうというメッセージを発信していく。現状では人が来ないし、労働環境を変えていかなければ業界自体も変わらない。それを変えていくために先陣を切る。今回は、リクルートページにメッセージ性の強い文章を掲載する。我が社は、企業として効率の良い業態は何か、利益を残すためにどうしたらよいかを追求していく。それを実現するために今、システム化に力を入れている」(草野社長)。一般企業のように土日祝日とまではいかないが、週に2日は休みを取ることができる環境をつくることで、業界のイメージ自体を率先して変えていく考えだ。業界では休まないことを美学とする経営者もおり、相反する考えとして批判を受けるリスクもあるが、業界の将来を見据えた行動であることに間違いない。それを実現させるためには、従来のような商慣習では成り立たないことから、さまざまな改善を実行している。

 その一例として、新しい商材や食材を購入する際に、各業者との直接取引に切り替えたことがある。具体的には、畜産農家から牛を1頭買いするほか、豚も直接購入している。卵を自社生産することもその一環である。コストを削減し、従業員に還元する。事業の見直しにも着手し、それまで力を注いでいた通販事業を縮小した。「通販は健康食品や化粧品などの高粗利商品なら良いかもしれないが、食品では採算が合わない。運賃が乗れば利益はまったく取れない」。

 現在はケータリング(仕出し)もスタートさせている。「ケータリングは今期から稼働したが売上は好調。リピーターも多く、内容が良ければ次も利用してもらえる。福岡県内だけでケータリング市場は10億円ほどあるが、今、福岡市内にケータリングのガリバー企業はいない。うちが3年で2億円ほどシェアを取れれば福岡でトップシェアを取れると思っている」と草野社長は語る。ケータリングは飲食店の延長線上で手がけることのできる事業である。手間暇かかることから、参画する企業が少なかったが、同社はこれまで飲食店経営を通じて蓄積したノウハウを土台に着手した。

 効率経営は始まったばかりだが、収益改善の積み重ねが企業体力を強化し、上場に向けての環境整備につながることは言うまでもない。上場することが、働く従業員のモチベーションの向上につながる。草野社長の挑戦は始まったばかりだ。

 草野社長はどのような状況に置かれても決して慢心せず、自らを戒め、地道にコツコツとできることを積み重ねてきた経営者といえる。すぐに、人や店舗を劇的に変えることはできない。ただ、時間をかけてでも建て直していく根気がある。売上15億円、20店舗、300名近い経営規模で、昼間は経営者としてマネジメントを行い、夜は従業員として現場に出ることも、簡単にできるものではない。それは創業者としての志が根底にあるのは当然のことながら、類まれなリーダーシップがそうさせているのかもしれない。

(了)
【矢野 寛之】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:草野 益次
所在地:福岡市中央区赤坂1-4-27
設 立:1996年4月
資本金:5,000万円
売上高:(17/3)15億1,940万円

 
(中)

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