2024年04月20日( 土 )

ナイフの朝鮮半島・戦争パニックか、平和攻勢か(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

破局と共存の間で揺れた2017年の半島情勢

 2017年の南北朝鮮は、どういう年だったのか?
 韓国の文在寅大統領の国内支持率は、70%台ととても高い。一方の北朝鮮の金正恩委員長は、「核強国づくりは完成した」と高らかに宣言した。近隣国としては、うんざりするような状況だ。米日中ソの周辺国は北朝鮮を持て余し、韓国の従北政権が北の独裁者に秋波を送る現状は、なんともやりきれない。さて、2018年の朝鮮半島は、どうなるのか? 朝鮮半島の現代史を振り返りながら、占ってみたい。
 破局か共存か。2018年の朝鮮は、重大な岐路に立つ。

 とりあえずのポイントは、やはり2月9日からの平昌五輪だ。「世界の注目を浴びる」イベントに、南北双方はこれまでも神経を使ってきたからだ。1988年のソウル五厘を控えて、北朝鮮は大韓航空機の爆破事件(金賢姫事件)を仕掛けてきた。今度は、硬軟どちらの手法をとるのか。
 危機局面では、南北の「同族意識」を強調するのが、南北両政府に共通する常套手段である。まず、それを抑えておきたい。次に、意外な奇襲戦術だ。それは硬軟いずれの戦術であるかを問わない。
 北朝鮮はそろそろ「平和攻勢」に転ずる、というのが私の見方だ。金正恩による「核完成宣言」がそれを予告する。最近、彼の視察先が、軍事から民需に方向転換したのも、その証左だ。これまで核開発のために犠牲にしていた「民需」に神経を使わねばならないほど、国内情勢は逼迫しているということだ。
 だから北朝鮮による「平昌五輪」参加の可能性は、世間やマスコミで言われているほど、低いものではない。北朝鮮一流の「ネコダマシ」戦術で、周辺国をたぶらかす可能性があるのだ。
 朝鮮半島の歴代国家は、生き延びるために、なんでもやってきた。これが2つ目の歴史の教訓だ。

「外交的敗北」に終わった 文在寅大統領の訪中

中国の「冷遇」に文大統領は何を思う

 今年、韓国で映画「南漢山城」がヒットした。李氏朝鮮が清朝に屈服した「三田渡の屈辱」を描いた作品だ。李朝の王様が清朝使節に土下座したという、対中屈辱の歴史的事件だ。その記念碑はいまでもソウル市内にある。見に行ったことがある。子どもたちがその前で、嬉々としてボール遊びしている光景に驚いた。

 12月上旬に行われた文大統領の訪中は、散々な結果に終わった。「国賓待遇」と言いながら、フィリピン大統領ほども歓迎されなかった。同行カメラマンは、中国側の警備員に暴行された。対中屈辱の再現であった。
 文政権は今春の誕生後、米日との同盟・友好関係を毀損し、頼みにしている中国からはヒジ鉄を食らった。文政権は「主体思想派」あがりの青瓦台スタッフを駆使して、北朝鮮への秋波を送り続けるしかない状態なのだ。

 12月中旬、韓国の女性外相が初めて訪日した。「平昌五輪の開会式に来てほしい」。文大統領からのそんなメッセージを伝えたが、安倍首相は「大統領に日本でお会いできるのを楽しみにしています」と、婉曲にはねのけた。「遠ざかる日韓関係」を象徴するシーンだった。
 福岡・釜山関係も、ここで言及しておきたい。釜山市は福岡市の姉妹都市だ。西日本新聞のインタビューに答えて、釜山市長は最近、釜山の日本総領事館裏の慰安婦像は「道路交通法違反だ」と言及して、一部の注目を引いた。この「成果」は、対韓外交のエキスパートである釜山総領事の説得工作の賜物だ。こじれた日韓関係は、一長足には改善が望めない。焼き魚の小骨を丹念に取り除いて食べる(終戦時の鈴木貫太郎首相の指針)ような我慢強い取り組みが必要だ。

(つづく)

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)を歴任。国民大学、檀国大学(ソウル)特別研究員。日本記者クラブ会員。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp

 
(後)

関連記事