業界の「匠」座談会　それぞれの道とは（後）

　博多人形師の第一人者、中村信喬氏。世界に日本庭園のすばらしさを広めている（株）別府梢風園の社長、別府壽信氏。明治時代から115年続く（株）未来図建設の社長、菅原正道氏。そして数々のテレビ報道番組を手がけ、NetIB-Newsの動画コンテンツの製作にも携わる（株）TMエンタープライズの社長、杉本尚丈氏を加えた、それぞれの業界の「匠」による座談会が1月17日夜、福岡市内の飲食店で行なわれた。

（進行：データ・マックス　代表取締役　児玉 直）

　中村　大昔の人形師は何でもできた。人形師は、絵も描けるし、彫刻もできる。今はなんでもできる人形師がほとんどいない。博多人形師というのは「称号」です。博多人形師と名乗れる人は少ない。

　児玉　中村さんは先を見て、JCに入ったりして、人脈つくっていったようだけど、ほかの人形師はそういうことをしてこなかったのですか？

　中村　名前を売ってこなかった人形師は個展もできない。若い作家は食えないからといって、教室を開校したりする。すると、腕が上がらない。作品をつくって、品評会に出して、先輩から評価を受けて、さらに腕を上げるという努力をしないといけない。
　30代40代のころに、「先生」と呼ばれると伸びないと思います。人形師だろうと、人柄は大事です。どんなにがんばっても上がいっぱいいるんですよね。上がいなくなったとしても、故人ですごい人がいっぱいいるんですよね。その人たちにどうやったら自分が近付けるのかという努力をしないと、腕は上がらないですよ。
　売れない作家は、相手の人が何を望むのか、何のためにつくるかとかを考えてなくて、人に夢や希望を与えることがないんですよね。売れるかどうかばかりを考えている。そこの卑しさが作品にも出てくると思うんですよね。

　別府　3代目を継がれて、自分の作品を先代と比べられたりしましたか？

　中村　もちろんありました。我が家に生まれたら、「出来て当然」と言われていました。一流になるのなら継がしてやるけど、二流三流なら食えないからやめとけ、継がせないと小学校1年生ぐらいのときから言われていました。
　我が家は男1人が代々続いていて、細々と継いで来ているけど、世界でも類を見ない「デッサンする力」がある人間が4代続いたんです。私の息子も東京芸大をトップで卒業してくれた。4代直系で、デッサン力があるのはなかなかないと思います。
　父親も祖父もすごくて、そこに追いつけていないんです。運慶をこの間テレビで見て、やはりすごいなと。どうしたら運慶を超えることができるかなと考えたりしています。
　うちの娘は、書道ですごい才能を発揮しています。もう1人の娘はイラストレーターをやっているんですけど、ものづくりをするために、この家系に生まれてきたって思っています。

　一同　やはりものづくりのDNAだね。4代にわたって、クリエーターの能力は脈々と続いているんですね。

　中村　一流になるためには、10代前後のころに、そのことに「2万時間」取り組むことです。トップアスリートも同じだといいます。
　3、4歳ごろから始めて、だいたい中学ぐらいで2万時間に到達するんですけど、それだけしたら、人を見ただけで骨組みが見えるようになります。顔を見ていたら、頭蓋骨がイメージできるようになる。そういうことがわかるようにならないとダメなんです。それができないと、ものはつくれない。
　2万時間って簡単ですよ。1日6時間を5年間。でも、これは若い時しかできない。年取ってくるとできないんです。半分の3時間にしたら10年かかるんです。3分の1とかにしたら、30年かかるんで、もう無理ですよね。だから、若いうちにどれだけ努力するかにかかっています。

　児玉　これから博多の人形師は衰退していくんですかね？

　中村　いいえ。将来はきっと博多に限らず、まったく別の場所からすごい人がポンと出てくると思います。他県とかどこかの芸大を出たとか、そういう人が博多に移り住んできて、新しい文化を作っていくのだと思います。

　別府　人形師が人形だけをつくっていない、いわゆるアーティストになるんですね。家の争いだけじゃないですよね。

　児玉　今年はどんなスケジュールですか？

　中村　今年は日本橋三越の画廊、そして、来年は高島屋で東京、京都、大阪で個展を開催します。その次は、福岡の三越ですね。その先はもしかしたら、大英博物館でやれるかもしれないんですよ。

　一同　それはすごいですね。

　中村　3、4年先に、大英博物館でやる際には、ぜひ来てください。

　5人での座談会は、中村氏の「芸術への向き合い方」を中心に展開したが、それぞれの業界にも相通ずる部分が多く、実り多き2時間半となった。

（了）