2024年04月24日( 水 )

発病のメカニズムを遺伝子レベルで解析 「精密医療」実用化へ(中)

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九州大学医学部 第一内科教授 赤司 浩一 氏

 医学の進歩とともに人間の平均寿命は延びてきた。しかしながら、依然として「不治の病」といわれる病気も少なくはない。日本人の死因第1位のがんも、重粒子線がん治療などの先端医療を始め、さまざまな治療法が開発されてはいるが完全に克服できたとは言い難い。このようななか、遺伝子解析から病気のメカニズムを解き明かし、個人レベルで適切な治療を行う「精密医療」(プレシジョンメディシン)が実用化に向けて大きく前進している。そう遠くはない未来、われわれの病気、健康に対する考え方はどのように影響を受け、変化するのだろうか。九州大学で「プレシジョンメディシン研究センター」設置を進めている赤司浩一教授に話をうかがった。

究極の個人情報

 ――より多くの人が「精密医療」を受けるためには費用面の問題があるということですね。研究センターでは、どのような研究が行われていくのでしょうか。

九州大学医学部 第一内科教授 赤司 浩一 氏

 赤司 精密医療の体制づくりと、もう1つは、ゲノム医療中核拠点に設定される九州大学病院のなかでがんの遺伝子パネル開発や病態に重要な遺伝子異常の探索といった重要な機能を担っていきます。

 遺伝子を全部調べることは現実的ではなく、どの遺伝子が異常を起こしやすいのかは、これまでの研究でわかっています。その遺伝子をリストアップして、3万個あるうちの遺伝子から400個ぐらいを調べるためのシステムをつくらなければいけません。このシステムを「遺伝子パネル」といいますが、この開発が第一にあります。

 次に、遺伝子情報に関する倫理的な問題への対策を考えていかなければいけません。遺伝子解析を行うと、その人特有の情報がわかります。そのなかにはオープンにしてはいけない究極の個人情報というべきものもあります。たとえば、この人は白血病になりやすいとか、乳がんになりやすいといった情報です。がんには、あとからゲノムの変異が積み重なってがんになるものもあれば、先天性で親から受け継いでいるもの、がんとは直接関係がなくても、そのリスクを増やすといったものもあります。遺伝子情報を、結婚して子孫を残す前に開示しなさいとなれば、その人の人生自体に影響をおよぼしかねません。さらに研究が進めば、AIによって、その人自体のさまざまなスペックが遺伝子解析を通じてわかるかもしれません。この究極の個人情報をセキュリティ面でどうやって守るか、また、聞かれた場合にどう伝えるか。伝えた後の精神的負担に対して遺伝子のことを説明する医療倫理に長けた遺伝子カウセリングも必要になるでしょう。未知の領域ですが、「精密医療」には、そういった奥深い要素もあります。

 ――アメリカの女優アンジェリーナ・ジョリー氏が、遺伝子異常から乳がんの予防手術として両乳房を切除し、再建したことは話題になりました。

 赤司 彼女の場合、場所が特定できていますが、「体のどこかにがんが出ますよ」という場合もあります。だから、遺伝子カウンセリングを先に用意しておかないといけません。知った以上、教えるかどうか、という問題もあります。そういうことも含めて、きちんと同意を得たうえで検査をやらなければいけません。がんを調べると、その人の遺伝子バックグラウンドまで見えくるわけですから、ものすごく繊細な問題です。

(つづく)
【聞き手・文・構成:山下 康太】

<プロフィール>
赤司 浩一 氏
1985年、九州大学医学部卒業。2000年、ハーバード大学準教授、同年九州大学病院遺伝子細胞療法部教授、08年、九州大学大学院病態修復内科学(第一内科)教授。14年10月、(一社)日本血液学会の理事長に就任。

 
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