2024年04月19日( 金 )

近づくレッドオーシャン~米巨大DgSに見る次の一手(前)

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 その昔、薬といえば配置薬だった。大抵の家庭には風邪薬から傷薬、胃腸薬など薬の入った箱があった。利用した分だけ支払ういわゆる「置き薬」だ。しかし、その置き薬市場も1995年あたりの600億円をピークに今ではその3分の1程度に減少した。置き薬に加えてドラッグストア(以下、DgS)登場前の市販薬は薬店、薬局での購入が一般的だった。胃腸薬や風邪薬など病院に行くほどではない症状の時、消費者は薬局に行き、薬剤師と相談して薬を買った。いわゆるかかりつけ薬局だ。しかし、90年ごろからそんな薬店や薬局が少なくなり、DgSがそれにとって代わった。今や小売業の主役となったDgS。ただし、業界の伸び代には限界が見えつつある。

DgSの台頭で小売業の主役変わる

 DgSは薬に加えて雑貨などの薬以外の品ぞろえでお客の利便性を高めた。かのセブンイレブンのサウスランド社も顧客の要望で当初販売していた保存用氷に加えて、牛乳などの食品の販売を加えたのが発展のスタートだった。DgSも薬品というカテゴリーに日用雑貨や食品を加え、それまでになかった新しい購入機会を消費者に提供したのである。

 80年前後からその姿を現したDgSだが、2000年以降になると本格的に業態としての存在感を強くする。その特徴はまず小商圏で店舗維持ができる業態構造にある。その第一の理由は生鮮食品をもたないことにある。

 生鮮食品には製造工程があり、製造には人手がともなう。さらに生鮮食品は加工食品や雑貨に比べて販売期間が極端に短い。廃棄ロスに加えて設備やその維持管理にも投資がかさむ。端的に言ってハイリスクローリターンだ。しかし一般世帯の日常食生活には生鮮品が欠かせないから食品小売にとって生鮮売り場は半ば必須だ。

 鮮度の問題で買いだめのできない生鮮食品は当然、購入頻度が高くなる。購入頻度が高いというのは言い換えれば来店頻度が高いということである。

 かつて、GMSといわれた業態が衣料雑貨に食品を加えたのも来店頻度の向上を目論んでのことだった。食品を安く売り、その集客で利幅のとれる非食品を売ろうというこの試みは、目玉といわれる安売りの連続やワンストップ性が消費者に支持され、あっという間に中小の食品小売業を淘汰していった。

 これは医薬品や化粧品を売るために食品を安く売るDgSの手法に相通じる。しかし、利益なき繁忙といわれた利益無視の商法は自身の体力を消耗しただけでなく、食品売り場の収益性を改善し、新たな経営の柱へと成長させることにも失敗した。

 その間、生鮮の生業店から出発したスーパーマーケットは食品以外に頼る柱がなく、その収益性の追求に精出した。その結果、生鮮を中心にそのレベルを向上させ、一般生活者の日常に欠かせない業態になった。しかし今、そのたしかな存在にも変化が起き始めている。生活者の食スタイルが大きく変わり始めたのだ。

 その1つが“生鮮離れ”である。とくに青果物や鮮魚といったかつて食生活の中心を占めた生鮮がその重要度を落としてきた。とくに団塊の世代が現役を離れ始めた2010年ごろからその傾向が強まり、それは今も続く。

 その理由は家族の構成と嗜好の変化である。まず共稼ぎで主婦の家事に掛ける時間が減ったことである。これは調理に手間がかからない肉メニューやデリカの購入につながった。さらに塾や習いごとなど、子どもの教育時間の増加も母親が子どもに家庭料理を伝える機会を喪失した。

 生鮮のなかでもとくに鮮魚は面倒な下ごしらえや調理技術だけではなく、住宅事情や臭いなどの理由でとくに敬遠された。さらに世界的な水産物消費の伸長と漁獲量の低迷で価格が高騰したことも消費の停滞につながる。その結果、今や切り身などに半加工された限られた養殖魚種が消費の大きな部分を占めるようになっている。

 このかたちはいわば鮮魚の加工食品化であり、かつて水産品を中心とした生鮮で強みを発揮してきたSMはその特長を失う。団塊の世代以前の主婦は食料品購入のために選ぶ店の基準に魚を置いていたが今やその条件が消えようとしているのである。

(つづく)
【神戸 彲】

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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