【コロナに負けた!(1)】コロナ狂想曲
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画家・劇団エーテル主宰 中島淳一
プロフェッショナルにとって、仕事は自分が自分であると実感できる唯一の瞬間といっても過言ではあるまい。
3月、福岡市美術館での個展中止の電話をもらう。DMを出したばかりの時だった。はたして4月18日のミュージアムホールでの一人演劇1600回記念公演「ゴッホ」はと心配になったが、後日、市役所からの許可が下りたという連絡が美術館から入り、ぎりぎりの段階でリーフレットを印刷し、発送した。
ところが4月1日、再び中止の電話が入る。芸術家という超零細企業にとっての経済的損失は計り知れない。己れの脆弱さを思い知らされ思わず笑ってしまった。ほんとうに美術館を閉鎖する必要があるのかと声高に叫べば、その途端、私は無責任な自己中心のアウトサイダーとして非難されるだろう。沈黙は金なのだ。アトリエに篭り、作品制作に没頭する。次第にいつもの自分を取り戻す。芸術家として思うがままに生きて死ぬ。アメリカ留学時代に決めた覚悟を思い出す。作品は私の分身、魂の亡骸だ。できれば美しくあって欲しい。生と死のはざまを埋めることができるのは美である。
作品の美が死んだ後も生き続けることができる時、初めて芸術家として認められる。だが、そのためにはまず生きなければならない。生き延びて創作し続けなければならない。生身の人間にとって人生は結果ではなく、生きているあらゆる過程に実在する。ウイルスは神か悪魔か。ウイルス進化論によれば遺伝情報はDNAにのみ伝達されると考えられてきたが、DNAのコピーであるRNAから逆転写されることも発見されてきたという。原本のDNAに写本のRNAが影響を与えるのである。そのRNAを劇的に変化させるのが他ならぬウイルスなのだ。
人類を脅かすパンデミックが地上を覆う。ウイルスは人体に侵入し死に至らしめるのみならず、人の遺伝子にまで作用し、より強い生命体に進化させる。しかもその進化は長い年月をかけて少しずつ変化するのではない。RNAの変化のスピードはDNAの変化の100万倍も速い。
歴史の流れは一瞬にして変わる。政治も経済も社会構造も企業もあっという間に変容する。コロナ狂想曲のなかで我々もまた豹変するしか生きる道はない。関連記事
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