2024年05月02日( 木 )

溶けて溶けてどこへ行くの? 我々には覚悟はあるか(8)~ワタシャ、いつまでもキャディよ!!溶けないわ

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渡ることを忘れてもワタシャ、燕よ

 2016年12月31日12時半、あと12時間ほどで17年の新年を迎えることになる。筆者はバリ島北部にあるアグン山(高さ約3,000メートル)を眺めながらランチを食べていた。「素晴らしい火山だ」と、この山の威容さに見とれていたら、飛行している燕を発見した。日本へ飛んでくる渡り鳥=燕の発信基地がインドネシアであることは知っていた。調べてみると、種によっては1年中、バリ島に定住している燕もいるそうだ。

 1月27日昼、沖縄辺野古の海岸を一望できるゴルフ場にいた。太陽光線を反射させながら長閑な海辺の雰囲気を醸しだしていた。「どうしてここに米軍基地を建設しなければいけないのか!!」と疑問を抱き続けていたところに突然、発見したのが燕の飛翔である。「どうして飛ぶのよ、燕さんたちよ!!」と奇声をあげた。これまた調べてみた。渡り鳥の習性がなく沖縄に定住している燕をリュウキュウツバメと呼んでいることを初めて知った。「渡り鳥の習性を忘れても燕だそうだ」と聞いた。

渡り鳥キャディさんの存在

 静かな辺野古の海を眺めつつ、1月27、28日と連日、プレーを楽しんだ。1日目のAキャディさんは身長165センチぐらいの大柄な25~27歳の女性。ただ、意外と色白で「沖縄の女性にしてみれば色白だな」と印象を抱いた。沖縄訛りもない。スタート前の時間に聞いた。「ゴルフの仕事を始めて何年になりますか?」との問いに「7年ほどやっています」という返事があった。「では、コースの読みもばっちりですね」と褒めた。「いやー、それほどでもありません」と謙遜する。

 「このゴルフ場では何年、勤務していますか?」と尋ねた。「3年です」と回答があった。「出身は沖縄のどちらですか?」と質問を進めた。「いやー、沖縄でなく北海道です」と予想しない答えに興味が高まった。「寒い北海道を避けて沖縄に移住したのですか?」と連続して問いを投げかけた。「寒い冬場だけ沖縄に来ています。3回目です」と恐るべき返事だ。「では夏場は北海道ですか?」と聞いた。「夏場は北海道でもキャディとして働いています」という答えだ。「では失礼ですが、渡り鳥・キャディさんですか?」と確認を求めた。「そうです」と明快に返事があった。

 話をまとめるとこうなる。Aキャディさんは北海道苫小牧出身。札幌空港近くの名門コースで7年、キャディをしている。札幌周辺は10月末から11月第1週にはゴルフ場はクロースしてしまう。当初、この冬場は飲食店でアルバイトをしていた。ところが同僚から「冬場は沖縄でキャディをしてきた」と聞き、その話に惹かれた。Aさんは「仕事をするなら1年中、好きなキャディで稼ぎたいな」と願っていた。迷いもなく北海道がシーズンオフになったとき、一路、沖縄へ飛んだ。もう3回目になる。この冬は11月15日から仕事に就いていた。

 このゴルフ場は大きなリゾート地のなかにあり、宿泊設備が充実しているから生活するには都合が良い。寮もあり、そこで自炊すれば生活費も安く済む。渡り鳥仲間は12名いるとか。大半が3年以上(3回)の渡り鳥である。沖縄出身のキャディはゼロとのこと。奇々怪々なり。このゴルフ場、リゾート敷地内には若者がたくさんスタッフとして働いている。地元のキャディ志望が稀有とは不思議なことだ。ただし、このゴルフ場の客はセルフプレーを好むことが多いとか。

春には北国へ帰る

 2日目、28日のプレーは朝7時5分スタートであった。まだ薄暗かった。キャディBさんは年齢40歳前後で、沖縄出身と感じたが福島県郡山出身だという。夏場は福島県のゴルフ場で働いている。福島のゴルフ場は11月末辺りまでオープンしているとか。

 Bさんは4回目の渡りで、この冬場には11月23日から移り住んできたとか。「冬場の寒さから逃避できることが最高。沖縄のこともだいぶ詳しくなってきたわ。1年周期の生活リズムにメリハリがついて幸せ」と自慢げに語る。

 Aさんは北海道への渡り鳥凱旋後、故郷での初仕事は4月1日からだそうだ。Bさんの場合は3月19日とか。沖縄でプレーして初めて知った“渡り鳥・キャディ”の存在。調べによると、沖縄の冬には渡り鳥・キャディが200羽ほど飛んでくるとか。大半の人さまは世の流れに、流されて溶けてしまう運命を背負っている。A・B両キャディには迷いはない。「ワタシャ、いつまでも渡り鳥・キャディよ!! 溶けることはないわ」と断言する。心強い存在だ。

 
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