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特別取材

投資銀行気取りの農林中金 証券化商品を買い続けた末路は
特別取材
2008年11月21日 14:40

 米国発の金融危機が日本にも飛び火しそうだ。政府・自民党は、経営悪化が懸念される地方金融機関に予防的に公的資金を注入できるよう、金融機能強化法の成立を急いでいるが、実は同法の最大の狙いは農林中央金庫の救済である、といわれている。

10兆円を超える投資

 「ザ・ノーリンチューキン・バンク」。米ウォール街や英シティで農林中央金庫は、そう呼ばれる。「あそこにもって行けば何でも買ってくれた」。フランス系銀行の幹部はこう打ち明ける。スイス系金融機関の幹部も「まるで農中は『投資銀行』気取りでした」と笑う。

 というのも、農林中金は、サブプライムローン問題で危険さが浮き彫りになった証券化商品や米政府支援機関(GSE)債を大量に買い込んできたからだ。その金額はなんと10兆円を超える。

 複雑な農協系金融機関の構造はこうだ。まず、市町村段階にある単位農協に農家など組合員の貯金が82兆円集まる。共同組合組織である農協がこれを組合員の農家に貸し付けて自力運用できればいいのだが、全国285万戸の農家のうち本格的に農業を営む専業は多めに見ても40万戸しかない。片手間で農業を営む兼業農家という名のサラリーマン世帯が圧倒的な農村地域内に、優良な貸付先はない。したがって、都道府県単位の信用農協連合会に運用を任せて預ける。その金額は50兆円を超える。ところが信農連もろくに運用ができないため、約30兆円を農林中金に預けている。

 農林中金はこうして系統といわれる農協組織から集めた約39兆円の預金に加えて、農林債という債券発行で約5兆円を調達。ところが、こちらも単位農協や信農連同様に貸出先に恵まれず、貸付金は約10兆円に過ぎない。金銭信託に約8兆円を回し、有価証券運用に36兆円もつぎ込んでいるのだ。

 この有価証券運用の中身が問題なのである。農林中金が11月6日に公表した業績下方修正の補足資料によれば、ファニーメイやフレディマックなど米国住宅金融公社債券に3兆4,500億円余、米政府抵当金庫(ジニーメイ)保証の住宅ローン担保債券に6,500億円と、あわせて約4兆円を投じている。
証券化商品はもっとすさまじく、債務担保証券(CDO)に2兆4,000億円強、資産担保証券(ABS)に2兆9,000億円などと、合計6兆8,000億円余も投じている。しめて10兆円を超える金額だ。

自己資本を吹き飛ばす

 農林中金は、米GSE債は「米国政府が保証すると約束しており問題はない」とするが、危ういのは証券化商品である。「大半がトリプルA、もしくはダブルA以上の格付けを取得している」(農林中金広報部)というものの、今回の金融危機で格付けがまったく当てにならないことが判明している。

 農林中金は6月末までに保有CDOに2,889億円の評価損が出ると国会に報告しており、これは簿価の1割強を占める。しかし、米メリルリンチが7月に保有するCDOを投資ファンドに売却した際の売却額は簿価の22%に過ぎない。農林中金とメリルのCDOがまったく同一のものではないとはいえ、農林中金の評価はメリルと比して甘いといわざるを得ない。
いまやCDOなど証券化商品の取引はほぼ停止しており、市場では買い手がほとんどおらず、価格がつかない状態にある。つまり時価が限りなくゼロに近づいている代物だ。これを厳密に時価で査定すれば、農林中金の約3兆円余の自己資本を吹き飛ばすほどのロスが生じても不思議ではない。

 さらに驚くべきことに、運用ノウハウが乏しいくせに投資銀行を気取った農林中金はなんと、サブプライム問題が表面化した後も盛んに証券化商品を買い続けてきたのである。

3,000億円規模の調達

 リーマン・ブラザーズが破綻するほんの3週間前には英『ファイナンシャル・タイムス』紙のインタビューで「運用資産の37%にあたる16兆円が証券化商品で、これを1、2年後には50%にまで高める」と、証券化商品を買い増す姿勢を明らかにしているのだから、そのドン・キホーテぶりには恐れ入る。3月末に6兆円だった証券化商品の残高が9月末までに8,000億円強も積みあがっているのだ。

 これだけ為替が円高に進むと、外国債券や外貨建ての証券化商品に為替損失の発生リスクも高まる。また、金銭信託に計上されているもののなかには、ヘッジファンドや買収ファンドむけの投資も相当額あり、こちらも一部が毀損している可能性がある。

 「金融機能強化法の狙いは、地方の地銀や信金・信組以上に農林中金の問題があります。保有資産の内容から見て相当の影響を受けていることは間違いない」と、民主党の金融政策通の議員は言う。同法の素案作成に突如として農林中金が対象に盛り込まれたのは、「農林水産事務次官OBの上野博史理事長が自民党や農水省などに働きかけたからだ」とこの議員は打ち明ける。
これに対して、農林中金は「公的資金の注入は必要ない」としつつ、農協など系統金融機関を引き受け先として3,000億円規模の資本調達を検討している。果たしてこれで足りるのか。年末に向けて住専問題以来、十数年ぶりに農協金融の問題が浮上するのは避けられないだろう。

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