難解と思われていた「イスラム」世界の政治・経済の動きが、実によくわかる。ただしこのタイトルは必ずしも正しくない。正しくは、「イスラム」地域に対して、欧米(とくに米国)がどんな仕掛け(悪巧み)をしているかを見れば、3年後の世界がわかるということだ。
著者は、アルパカス紙(クウェート)東京特派員、在日リビア大使館渉外担当官の経験もある第一級中東アナリストである。
最近、新聞・雑誌で「イスラム」という言葉がよく目につく。先日会ったアジアウォッチャーの知人からも「イスラム」という言葉が何度も出た。「インドが2050年に世界一の大国」になるのは有名な話だが、正しくは「インドではなく、イスラム教徒が世界一になるのだ」という。同様に、マレーシアの人口もここ10年増え続けているが、すべてイスラム教徒のマレー人だ。同国の経済を支えている中華系人口比率は激減している。
2010年4月、チュニジア「ジャスミン革命」の半年前、米国はチュニジア、リビア、エジプトなどのアラブ諸国の学生を、密かに、ワシントンD.C.に呼びレクチャーをほどこした。表向きの主催者は米国のウェブ会社であるが、米国政府が裏で関係している。この時、彼らが教えられたのは、国際政治や国際経済のレクチャーというよりも、ネットメディアを活用した情報の大衆伝達(扇動の仕方)のノウハウである。そして、この彼らが、国に戻り、結果的に「アラブの春」を演出した。
中東イスラム諸国は、程度の差こそあれ、消費税ゼロ、電気代、水道代、病院の診察も無料である。教育費も無料で、大学卒業者には、土地も与えられるし、お金も無利子で借りられる。豊富な天然資源の恩恵である。
しかし、どこにでも不満はある。中東イスラム諸国は、エリートの若者にとって「古びて伸びきった革袋」だ。財閥系企業の系列がほとんどのビジネスを抑えており、若者が起業で成功する可能性がほとんどない。サウジアラビアの女性は、水着はもちろん、車の運転もご法度で違反はムチ打ち10回の刑である。
03年、米国は「イラクの自由作戦」の名のもとに、サダム・フセイン体制を倒し、その後「イラク復興基金」を創った。同基金で石油を売って得たお金はすべて管理するのだが、その管理者(財布を握った)は米国である。
リーマン・ブラザーズの負債総額は64兆円である。米国は、イラクの方定式を、「アラブの春」の国々に適用を試みている最中である。事実、暫定政権のメンバーを見ると、仕掛けは順調に進んでいる。実は、同じアラブ諸国のエリートの学生をECの某国も呼んでレクチャーをほどこしている。欧米先進国では、破壊⇒復興⇒「自国の経済の復興」は成功方程式となっている。
アジアにしても、中東にしても「イスラム」からは目が離せない。そのための入門書になる。
<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。
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