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「情報占有」の為の最強制度である著作権!~「著作権の世紀」福井健策著(集英社新書)
書評・レビュー
2012年8月20日 11:40

 『アップルは8月7日、9人の陪審員たちに対して、Macのデザインを担当したこともある著名なグラフィックデザイナーであるスーザン・ケアなど、複数の専門家による証言を使って、サムスンが「iPhone」「iPad」および「iOS」のユーザーインターフェースを故意にコピーしたことを強調した』これは、今世界的に話題となっているアップルとサムスンの「著作権訴訟」の最新ニュースである。

 著者は日本国・ニューヨーク州弁護士であり、日本の著作権法の第一人者である。
 21世紀は著作権の世紀と言われる。例えば、インターネット検索(ヤフー)を行なうと、「著作権」という用語のヒット数はなんと5億件を超える。これは、「特許」の10倍であり、「温暖化」、「エコ」、「民主党」、「自民党」いった頻出単語を全部合わせた数よりも多い。「TV」、「インターネット」などの単語に匹敵するのだ。

 20世紀の100年間は、印刷・映像・音楽など情報の複製技術、通信技術が発達し、流通する情報量が飛躍的に増えた100年間だった。しかし、技術の発達は文化産業の巨大化や芸樹産業の革新を生む一方で、情報の拡散を容易にして管理を難しくした。
 その結果、作品などの情報をいかに囲い込むか、言いかえれば、いかに管理して収益を確保するかが関係者の大きな関心事になり、情報占有の為の最強制度である著作権の存在感が高まっているのだ。

 日本でも、卑近な例であるが、読者もご存じの2007年の「おふくろさん」騒動が有名である。これは、森進一の代表曲であるが、作詞は川内康範、作曲は猪俣公章である。森進一が歌詞の冒頭に自分で台詞を付け加えたことが、著作権侵害になり、しばらく(争いの最中に川内康範が亡くなってしまう)歌うことができなかった事は記憶に新しいと思う。

 著作権が「最強制度」と言われる理由は大きく分けて三つある。著作権は、別名「権利の束」と言われる。複製権、上演権・演奏権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権・翻案権等の多くの支分権を持っている。
 二つ目はその保護期間の長さだ。欧米では、著作者の死後70年、法人の場合は95年、日本でも、個人の死後、法人の公表後50年の長きに渡って保護される。
 三つ目は、絶対的権利の「禁止権」を包含している点である。この禁止権で、著作権者は世界中の誰に対しても、理由を問わず、使用を差し止めることができる。冒頭の裁判で仮に、和解でなくアップルが勝利した場合はサムソン側に対象の機器の使用を禁止することが可能になるのだ。

 日本では、今まで著作物に関して、法律を強く意識せず、共同体の慣習に従う傾向にあった。ある種協調的な、悪く言えば馴れ合い的な社会運営が中心だった。しかし、社会の近代化が進むに従い、西欧的価値観を強く意識した法システムに従ってビジネスを考えていく必要が生じている。とんでもない損害が身に及ぶ可能性があることを認識し始めている。

 著者は入門編として「著作権とは何か」(集英社新書)も書いているので、併せて読むと、より理解が深まる。

<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。


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