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日本企業は"NATO"と揶揄されている!~「空洞化のウソ」松島大輔著(講談社現代新書)
書評・レビュー
2012年8月27日 15:53

 日本企業の「新興アジア」へのビジネス視察団はいつも満員御礼だ。しかし、ビジネスミッションの結果、その場の即断即決でビジネスが成立することはない。日本の企業のこうした行動を揶揄して"NATO"(Not Action Talking Only)と言う。社長と会長の二人が揃って来た会社の実話が面白い。「持ち帰って検討する」と社長と会長が真顔で答えたのに対し、相手側の大臣が怪訝な顔をして、著者に一言。「社長や会長の上に誰かいるのかい」

 著者は1973年生まれの経産省のキャリア官僚である。2006年から4年近く、インドに駐在インド経済の勃興と日本企業のインド進出を支援。現在、タイ王国政府政策顧問として、日本政府より、国家経済社会開発委員会に出向中である。

 日本企業が海外展開することは、それは一般に思われているような、産業や経済の「空洞化」にはつながらない。むしろ、「空洞化」を怯えて日本から飛翔しない逃げ口上にしてしまっては、日本という国の未来が本当に「空洞化」すると警鐘を鳴らす。経産省の官僚らしく、その論の根拠となる膨大なデータを駆使し、実体験をまじえて明快に論じる。
日本産業の「空洞化」に全く興味がなくても、日本の未来を憂う志の高い人間にこの本を読んでほしいとエールを送っている。

 日本は2005年を境に、「貿易立国」から「投資立国」に模様替えし、2011年には、その差が大幅に拡大した。貿易赤字に転落する一方で、海外への投資から得られた配当や利子という果実、所得収支は日本国内に戻り黒字になっている。特に、2009年以降は「外国子会社配当益金不算入制度」(自らの外国子会社から受け取る配当を原則非課税とする)ができ、その動きが加速している。

 著者の分析では、日本の中堅・中小企業のうち、本当は競争力があるにもかかわらず、海外展開していない企業は全産業の三分の一に及ぶ。日本企業の新興アジア進出を見ていると、日本では食べることができなくなって、やっと腰を上げることが多い。しかし、その時は既に手遅れで成功することは難しい。

 トヨタのサプライヤーに対する、「合理化要求」(毎年)・コスト削減要求は有名だ。日本型系列ビジネスシステムは既に崩壊している。今年初めの某経済誌のインタビューで、日本を代表する独立系部品・一次メーカーの社長は「自動車産業の国内市場は、数年で五分の一になる。国内に残るのは高級車ぐらいだ。社員も半減させなければならない。関係する2、3次のサプライヤーは現在約600社あるが、5年後に半分は不要になる」と言っている。中小企業こそ海外に出ていく以外、生き残っていく術はないのである。

 著者のエールは、日本の中小企業(特にサプライヤー)の全てのトップに投げられた貴重な"直球"ボールである。何としてでも打ち返さなければ、ここ数年で、日本の中小サプライヤーの半分はなくなるかも知れない。当たってほしくない予想である。

<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。


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