それに、当社は不動産管理事業を抱えており、一見すると日銭が入り倒産しにくい事業構造かと思われていた。ところが当社は、顧客に販売した物件の大半からサブリースによる物件管理を受託しており、これが家賃の逆ザヤ年間1億2,000万円、敷金の逆ザヤ16億円を発生させていた。(当社がサブリースするときにオーナーに差し入れる敷金は新築時家賃の4カ月分であり、当社が入居者から預る家賃は、物件間の競争の激化で下がった家賃に対して1カ月分程度になっていた。)
したがって、第1四半期決算時に15億円あった純資産はほとんどこれに食われてしまっていたわけだ。この家賃と敷金の逆ザヤは、歴代の不動産管理事業の担当役員が、各方面からの指摘を受けながらこれを放置してきたことで拡大してしまっていた。その経緯を説明しようとすると、それだけで1章を立てなければならないので、ここでは割愛する。
このため、不動産管理事業は赤字であり、かといって手間はかかるため人員を減らすことはできないという八方ふさがりになっていた。当時の当社の収支構造は、物件の売却益がない場合は、収入は不動産管理だけであり、それも実質赤字であったため、毎月1億5,000万円の資金が減っていくという状態であった。
資本増強のことも、先に書いたように取引先銀行の仲介により大手の資本を受け入れることを念頭に提携先を模索してショートリストを作成し、8月以降、いくつかの企業にアプローチをしていた。アプローチ先は、業容のいいマンションデベロッパーや、比較的健全な老舗ファンド会社などであった。
ところが、これも9月となり、リーマンショックのニュースが飛び込むと、資本増強の検討先は皆無となり、唯一検討していた老舗不動産ファンドも、当社の財務内容をデューデリした結果、断ってきた。
リーマンショック後、当社はさらに追い込まれていることを実感していた。
黒田会長や岩倉社長には、銀行の支店長から直接電話が入り、また頻繁にアポイントなしでの訪問があり、物件売却の進捗報告を求められていた。信用調査会社の取材もますます頻繁になった。10月に入ってからは、明らかに当社が倒産することを予見しているかのような電話も入りだした。
投資会社を名乗るある人は、私に電話をかけてきた。
当社が民事再生を倒産することを前提として、倒産後に不動産を安く買いたいという内容である。私は、資本増強のお話なら相談しますが、倒産は仮定の話でしかないので、今は聞けませんよ、といって断った。
また、伊崎専務からの紹介ということで電話をかけてきた人は、私に対して露骨に融通手形の手口による資金調達を持ちかけた。九州電力系の資金で投資先を急いでいるので、当社に融資をしたいというのである。
そのような融資を受けても返済できる可能性はないので断った。
<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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