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REBIRTH 民事再生600日間の苦闘(26)~トップの決断(後)
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2012年5月31日 10:00

 この石油販売会社は、福岡市内に本社のある財務盤石な企業であった。
 その会長は、自分が見出した後輩企業家に対しては、数億円のポケットマネーで支援をしたこともある、という評判だった。黒田会長は、若いころに、この石油販売会社会長の親族を含む節税対策に関してコンサルタントとして、不動産経営を提案したのをきっかけとして、その後も2年に1棟のペースで開発物件を買っていただいたり、同社のOBを当社の監査役として受け入れたりと、深い関係を築いてきたのだった。
 その石油会社会長が、当社に何か助け船を出したい、という話であった。

 これに対し、黒田会長は例の大分ホテルを買っていただくことを想定し、トップセールスを敢行していた。しかし、石油販売会社の経営陣は、ホテル購入に否定的だった。大分のホテルを買うことで、DKホールディングスは本当に助かるのか、という疑念がぬぐえなかったのだろうと思う。

bi_2.jpg そして、社内からも、この石油会社からの資本注入を受けることで、会社の存続を目指すべき、という意見も出てきた。この石油会社は、地元銀行の重要顧客であったため、石油会社会長が銀行との仲を取り持っていただき、当社を支えていただけるよう銀行トップにお願いしよう、という意見も出た。

 しかし、銀行トップへのお願いはまだしも、私はこの石油会社からの資本注入の方針に反対であった。
 と、いうのもリーマンショック以来の不動産市場は、冷え込みというよりは凍てつきといっていい状況で、これからも当面買手は現れないと思ったからである。それでは社員2割のリストラも即断できない当社の執行力では、仮に10数億円の出資を得たとしても、わずか半年ですり潰してしまうだろうと考えたからである。
 これは、黒田会長も同じように考えたのではないかと思う。
 実際、民事再生後に当社が計上した債務免除益は82億円に上った。民事再生せずに不動産を売却しようとしたら、資本増強も82億円が必要だった、うち34億円を自己資本の取崩でまかなったとしても48億円が必要だったということである。

 しかし、それでも経営者の先輩である懇意の石油会社会長から、率直な報告をしてみなさい、といわれたら、それを放っておくわけにはゆかない。そこで、私は、会社の実態が一目でわかる資料を作成し、10月中旬のある日、黒田会長に説明した。
 現在の各物件に対する顧客の価格目線と、実際に検討している顧客名称、それに、その条件で物件が売れていった場合の期末までの資金繰りについて資料をまとめ、報告した。明らかに、倒産は避けられないという内容の資料である。

 私は、職務上、何かを調べて会長に報告するような機会は多々経験していたが、黒田会長は、整えらえた資料を見ると、いつもほんの数十秒書類を見るだけで決断を下してしまう。この時も、会長は、いろいろなことはすべて忘れ去った様子で、

 「石川君、この状況であれば民事再生を出すしかない」と述べた。

 この厳しいトップの決断を引き出しにいくのは、私にとっても辛いことであった。
 しかし、会長は経営者として身を以てすべてのことを把握しており、倒産という最悪の決断にあたっても、冷静さを崩さなかった。そこで私も、Xデーは中間決算の発表期限に合わせていくことと、後で後悔しないために最後に銀行に私的整理の相談をしたいこと、それに法的スキームについては別途弁護士の意見を聞き、会社更生法が民事再生法で行きたい、ということを述べた。

 すると黒田会長は述べた。
 「Xデーを決めて粛々と準備をしていこう。私的整理は、私と岩倉社長で行くから」
 
 私的整理とは、法律によらず銀行との話合いで一部借入を免除してもらうことで事業の再生を図るものである。当社は上場会社なので経営者の個人保証は存在しなかったが、私的整理となれば、株式の償却や資材提供などでオーナー経営者にとっては辛い内容である。しかし、それについても黒田会長はこのように言った。

 「私のことはどうなってもいいから、何とか若いやる気のある社員を不動産管理事業の移して、救っていこう。とくに、4月に希望をもってうちに入った新卒の子たちを。私的整理のことは岩倉社長といっしょに私が銀行に頼むから」
と述べ、事業の存続を最優先する固い意志を示した。

 福岡の老舗百貨店である岩田屋は、バブル後の過大投資に圧迫されて、経営破たんに至ったが、創業家の退陣と私財提供を条件として倒産を免れ、債務一部カットを得て上場も維持した。当社の主要取引行の支店長は、そのときに地元銀行から岩田屋に出向して経営再建に当たった苦労人であるとのことだった。このため、私自身は私的整理に一分の望みをつないでいた。
 しかし、私的整理がテーブルに乗るか乗らないかにかかわらず、今は倒産の準備をしなければならない。私的整理がテーブルに乗らなければ、あとは倒産しかないのだから。

(つづく)
【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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