会長が経緯報告を終えたあと、岩倉社長が壇上に上がり、今後のリストラについて説明した。
「このような状況のため、リストラをせざるを得ません。このあと、解雇の方、継続雇用の方それぞれ個人別に通知します。継続雇用の方についても社宅手当や携帯電話手当などの諸手当のカット、本人給のカットなどで10%~30%の給与削減になりますが、ご協力をお願いします。そして、この説明会のあと、各担当取締役より、社員全員と個別に面談し、継続雇用または解雇の通達を行ないますので、しばらく残っていただきますようお願いします。突然のことで大変申し訳なく断腸の思いですが、退職金の支給や社宅の退去、それに再就職のフォローについても全力で取り組ませていただきます」
社員全員への説明会を終えた後、各取締役から管轄下の社員に対して個別に面談し、継続雇用の社員についてはその旨伝えて動機付けをし、やむなく解雇する社員については解雇通知を手渡す手筈となっていた。
私も、管理本部の部下と社長直属スタッフを含め22名の社員に対し通知を行なう立場であった。私の下の各部について、総務部は人数も少なく部長による部下掌握がある程度できていたため、部長に任せ、部下掌握に不安があった経理部については私が通知を行なった。
「●●さん、今回はこんなことになってしまって、よくしてあげられず本当に申し訳ない。解雇通知をお渡しするので、失業手当を受けられるよう、すぐ手続してほしい」
「私がしているような業務がなくなってしまうのは仕方がないです。石川常務こそ大変ですが、どうか頑張ってください。長い間本当にお世話になりました。実は、会長からも、もう解雇を通知せざるを得ない、ということはいわれていたんです。しばらく休んでから、次を探します」
秘書や広報、それに内部監査は社長直属のスタッフであったが、上場会社でなくなればもはやそのような仕事は必要ない。こういった担当の社員は、すでに自分の運命を受け入れ、次に向けて気持ちを切り替えてくれていた。
今後の民事再生手続や、不動産管理事業の続行のためにも経理のメンバーを極力残すことは重要な条件だった。
「■■さん、経理はこれから再生手続に入るので大変だ。でも、今を乗り切ればきっと事業を存続できる。これから会社は、賃貸管理に集中したこじんまりした会社に戻っていくけど、今の賃貸管理は、経理のフォローがなかったら仕事が回らない。だから、何としても残って続けてほしい」
「私は、役員の皆さんについて行きます。戦力にカウントしていただいてありがとうございました。これからも頑張ります」
「ぼくも事業の存続に目処がつくまでは責任をもってやるので、よろしく頼む。今回は、大幅な給料カットになってしまうけれども本当に申し訳ない」
不動産管理の経験が豊富なベテランの経理の女性たちが残ってくれたのは私にとって本当に幸いだった。
このようにして約50分の間に必要な通知を済ませた。
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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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