<預り敷金7割カットを実行する>
サブリースから一般管理への切替は、11月末日までに完了したが、サブリースの開始時に当社が新築当初の家賃の4カ月分を差し入れてあった敷金は、まだ未回収であった。
当社は、オーナーには新築時の家賃の4カ月分を差し入れるいっぽうで、サブリースした物件の入居者からは、1~2月分の敷金を預かっていた。当初は、入居者からも4カ月分を預かれたものだが、だんだん物件間の競争が激しくなり、倒産間際の時期には、敷金2カ月なら上乗といってよかった。したがって、サブリースを一般管理に切り替える際には、その差の2~3カ月分の差額をオーナーから返してもらわなければならない。
しかし、そのようなまとまったお金をすぐ支払えるオーナーはほとんどなく、かといって法的には明らかにオーナーの大半は当該差額の返還義務があったため、未回収のまま放っておくことができなかった。回収を強行すればサブリースの解約に至り、そうなれば家賃の6カ月分を違約金として請求されてしまい、民事再生どころか当社はたちまち破産である。
この問題を解決するため、黒田会長は、当該差額の7割カットというウルトラCを考えた。つまり、当該差額の7割は当社が債権放棄し、残り3割は24カ月の分割払いで返済していただくことにした。その代わり、オーナーには、当該分割払いの期間中は管理契約の解約ができない、という特約を付していただいた。こうすることで物件の歩留まりが高まり、その結果事業譲渡の対価も高まり、債権者への配当にも跳ね返っていくことが予想された。
後にこのことで主要債権者である銀行の担当者から小言を言われた。私たちは、このようにしてでも不動産管理事業の価値を高め、それによって高値での事業売却を狙うのが適当と考え、監督委員にもその旨了解を得て進めたことであるが、銀行の立場としては事業の価値云々は二の次のことで、まずは回収できるカネを極力もれなく回収して、それを配当に回しなさい、ということであろう。
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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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