<ノアの箱舟>
11月14日以降、社員の過半数が退職し、DKホールディングスは40名程度のこじんまりとした会社になった。
12月以降はサブリースの逆ザヤもなくなり、社員も減ったので、何とか自力で資金繰りができるようになった。そこで、私は、民事再生後の戦略目標として、残った40名全員の継続雇用を達成することを目指すことにした。
すでに、不動産管理事業を地元の再生ファンド等に譲渡するという再生イメージは固まっていた。これを実現できれば残った40人は、これまでどおりのメンバーでこれまでどおりの顧客に対応しつつ事業を存続できるのである。これが、同業大手への吸収というような途をたどった場合、オーナーも社員も大手の組織に取り込まれることになるため、それはなんだかかわいそうな気がした。
せっかく和気あいあいとした、過度に利益をせっつかない社風のなかで育んできたオーナーとの信頼関係を何とか守りたかったのだ。そのために、大手による吸収ではなく、地元の企業再生ファンドがスポンサーとなって新会社を設立し、そこに40人の社員をそのまま乗り移らせる、つまり、『ノアの箱舟』を造るのである。
しかし、当社は民事再生会社であり、事業譲渡は、債権者に対して少しでも高い配当を実現するために行なうことである。そこには最善の経済合理性が必要であった。
申立直後から、私に対してスポンサーになりたいという会社からいくつも電話が入った。
証券会社や信託銀行もスポンサー探しの事務局(フィナンシャル・アドバイザー,FA)をやりますという営業があった。いろいろな話を聞くと、不動産管理事業というのは、M&Aの世界では比較的人気のある業種であることがわかった。
不動産管理業で成長しようと思えば、管理戸数を増やしていかなければならないが、この業界は管理手数料が5%とほぼ同率に収斂しており、もっぱら会社とオーナーとの人的関係によって選択される性質であるため、営業活動では簡単には物件を獲得できない。
このため急速に戸数を増やそうとしたらM&Aしかないのである。
当初6社だったスポンサーの名乗りは、その後10数社まで増えた。
このため、社会的関心が強まり、交渉動向を新聞記者が常時ウォッチするという状況になり、債権者の利益のためにも相対交渉というわけにはいかなくなった。そこで、当社は2009年1月に、地元の会計事務所のコンサルタントをFAとして不動産管理事業譲渡の入札を行なうこととしたのである。
最終的には、21社が名乗りを上げたなかから、地元ファンドが支援する新会社が落札し、当初の意図が実現した。
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・REBIRTH 民事再生600日間の苦闘(1)~はじまり
<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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