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REBIRTH 民事再生600日間の苦闘(43)~もやのかかったような企業
経済小説
2012年6月26日 07:00

<もやのかかったような企業>
m_img.jpg 約束の日にX社の本社に出向いた。梅雨が明け、夏空が色濃い午後だった。
 本社ビルは個性的で、石貼りの豪華なロビーの受付にはきれいな女性が座り、面接に来た旨を述べると交通費として1千円札を渡してくれた。通された応接室は、壁は鏡とウォールナット調の板が貼りこまれている。床はタイルカーペットではない本物のじゅうたんが敷いてあった。壁にかかった額には日本画が飾られていた。美しく豪華だが、何か、うわべを飾っているかのような印象を受けた。

 この応接室で、私は管理担当の取締役による面接を受けた。
 この管理担当の取締役はX社の生え抜きで、ずっと営業を担当していたが1度体を壊して入院して以来、管理担当に配置換えになった、という人だった。いかにも営業的な物腰の柔らかさを感じた。面接の内容は、自己紹介、志望動機、職歴についての質疑応答など、一般的なものだった。最後に質問を許されたので、私は会社のビジネスモデルや、強み・弱み、収益力のポイントなどについてうかがい、各々率直な答えもいただいた。与えた印象はいいように感じた。

 1週間後、紹介会社から電話があり、1次面接を突破したので次は社長との面接をお願いします、とのことだった。

 私は、中堅企業の幹部としての採用を目指すに当たって、何よりも重視したのは経営者とのマッチングであった。
 なぜなら、上場会社でもワンマン色の強い会社というのがあるが、それ以前に、中堅以下の企業は大半がオーナー企業であり、上場会社以上に経営者絶対の風土を持つ会社が多いとわかっていたからだ。そして、私はダイエー、その子会社のホークスタウン、そしてDKホールディングスといずれもオーナー色の強い会社を経験してきていたので、経営者との相性がよければ、それが仕事のしやすさやモチベーションにつながるとわかっていた。

 このため、翌週の社長面接に当たり、改めていろいろ調べた。X社についてのインターネット上の風評、信用調査会社の資料などである。

 しかし、調べても、調べても、具体的な情報が出てこない。

 100億円の年商がありながら、マスコミへの露出がほとんどない。どうも、X社は情報を秘匿する傾向にある会社のようだった。
積極的な悪評が流布されている様子もないが、財務情報はほとんど公開されていないし、地元の経済誌のバックナンバーを当たっても、紹介記事はほとんどなかった。唯一、図書館でかなり古い企業年鑑にX社の簡単なデータがあった。その当時の売上および純利益、社長の年齢・出身校・趣味など。

 会社の様子や、社長の人となりが世間に知られていない、というのは大きな不安材料となった。

(つづく)
【石川 健一】

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▼関連リンク
・REBIRTH 民事再生600日間の苦闘(1)~はじまり

<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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