<喜べぬ内定>
「おめでとうございます、内定です」
漠然とした不安はあったが、内定を得たという安堵感のほうが大きく、モヤモヤ感を振り切ろうとする自分に気が付いた。
提示された条件も、1,000万円まではいかないが、地元の中堅企業としては高い水準であった。そして、その後も情報収集は続けたものの、思うような案件はなかったため、よほどいい案件がない限りは、このままX社に入社するしかないだろうと覚悟を決めた。
このようにX社の内定を得たのは8月であった。そして、入社予定は11月であった。この間、私が個人的に参加している異業種交流会で知り合ったことをきっかけに、地元健康食品メーカーのY社より年収1,200万円という条件で、企画担当の幹部としてのオファーを受けた。
しかし、こちらは少しインターネットで検索するだけでも、いろいろ内部に問題を抱えた企業であるとわかった。この会社は、近隣県に本社があり、主に健康食品やサプリメントを生産している企業であった。業績もよく、成長してもいたが、とにかく社員の離職率が高いことが知られていた。退職した社員が腹いせにインターネット上の匿名の掲示板などに、在職中に見聞きしたことを面白おかしく書きなぐっているのである。
このY社のウェブサイトを見ると、非常にこぎれいに作られており、印象がいいのだが、ひとつ気になる点があった。それは、社内の人物の声をたくさん紹介してあるのだが、紹介されている人物のそれぞれに「●●大学●●学部●●学科卒」と詳細に学歴を記載してあるのである。
最近は、どんな大手企業でも少なくとも表面上、学歴は問わない姿勢を装っているものだ。企業のデータベースや株主総会の議案書などを見ても、取締役の出身校までは記載していないケースが多い。そういう時代なのに、地方の一中堅企業が幹部社員の出身大学名はおろか学部・学科名まで記載しているのは滑稽でしかない。
この2社が選択肢ということになったが、結局私は、最初に決まったということと、さほどインターネット上の悪評がないということで条件は劣るもののX社への入社を決めた。だが、社長面接以来の何か心晴れない、"モヤモヤ感"が消えなかった。そこで改めて、いろいろな知人にX社についての評判を聞いた。
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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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