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REBIRTH 民事再生600日間の苦闘(48)~ブラック業界あれこれ
経済小説
2012年7月 3日 11:00

<ブラック業界あれこれ>
 いったんサーバーを設置すれば、毎日水が売れて日銭収入が入るミネラルウォーター販売というビジネスは、一見するととても安定した業態のように感じる。
 しかし、その実は、販売量の多いサーバー設置先では、その契約期間は2~5年である。期間を終えても更新してもらえるケースもあるが、契約更新のたびに各オペレーターに条件提示を求めて、都度、もっとも高いマージンを出す業者に切り替えていくところも少なくない。

 会社が設置先に支払うマージンはさまざまだが、基本的にはその設置先での売上が高いほど、マージンも高くなる。よくマンションの1階に置いてあるようなサーバーでは売上の15%くらいからである。しかし、そのようなサーバーでは月間数千円しか売れない。

water2.jpg これに対し、集客力のある店舗に独占でサーバーを置くと1店舗当たり月間数十万円売れることになる。これほど売れれば、新規サーバーの購入費用など数万円くらいからなので、設置台数を増やしても設備投資額としてはたかが知れている。そこで、このような効率的な設置先を探して常日頃より営業するわけだが、同業者との競争も激しいため、設置できたとしても売上の50%以上のマージンを支払うことも珍しくない。
 このマージン率を契約更新のたびに入札で決められては、年を追ってマージン負担率が上がっていくのは当然である。

 そのうえ、このマージンを前払いするという商習慣も一般化している。毎月末に売数を締めて、翌月にマージンを支払うのが基本的なパターンだが、それを月締め方式ではなく契約当初一括払いにするケース(協賛金方式)もある。もちろん、両者の組合せのようなケースも多い。

 理論経済学を紐解くまでもなく、売上に対する総マージン率が同じであれば、毎月支払われるマージンよりも、契約当初に一括して支払われる協賛金のほうが、設置先からは、より選好されるはずだ。逆に、月々マージン制と協賛金方式が同程度に選好されるためには月々マージン制のほうがマージン率が高くなければならない。

 会社側から見ると、協賛金方式は与信リスクを負う。
 向こう3年分の協賛金といって数百万円を支払い、その後1年で相手先が倒産してしまったら、残り2年分の協賛金は回収できないからである。月々マージン制と協賛金方式のマージン率の差は、財務基盤が厚く信用力のある設置先では縮まり、倒産リスクの高い取引先では大きく開くはずである。

 しかし、総じて会社間の競争が激しいため、条件交渉は、より設置先が好む方向に進まざるを得ない。このため、多くの会社で年々、マージン率が高まるとともに、協賛金方式の比率が高まっている。このことが各会社のPLはもちろん、協賛金を前払費用に計上するとともに資金を借入に頼ることになるのでBSを蝕んでいるのが実情である。

 サーバーにセットする水の商品力という観点から検討するならば、大手から中堅まで多くのメーカーがあるが、その差別化には限界がある。最大手メーカーはさすがに揺るがぬブランドイメージを築いており、設置先にも「やっぱり大手ブランドでなくては」というところは多い。しかし、それ以外となるとどんぐりの背比べであり、特徴を打ち出すのは非常に難しい。何しろ、ガロンタンクで1,000円前後という明確な枠のなかでの競争なので、商品での差はつきにくい。

 サーバーの入替が頻繁で、条件面での競争が激しく、なおかつ商品での差別化が難しいとなると、あとは人間関係力で勝負するしかない。各会社ともひたすらに営業社員を追い込むことで設置先を増やそうとし、成績の上がらない社員は辞めさせることで利益を守ろうとする。そういう業界に、人を育てる文化が根付くのは、確かに難しい。

(つづく)
【石川 健一】

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▼関連リンク
・REBIRTH 民事再生600日間の苦闘(1)~はじまり

<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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