<後継者難>
X社の営業社員に求められるのは、設置先・設置候補先の窓口担当者や決裁権者に「気に入ってもらい」「懐に入る」ことだけである。
そのためには、客先のキーマンに誕生日プレゼントを持参したり、会ってもらえない場合は待ち伏せしたりすることが求められる。このような会社にとっては、銀行出身者といえども、そのコネクションでサーバーを設置するための道具に過ぎず、期待していたように財界企業にサーバーを設置させてもらえなかったからといって、簡単にお払い箱にしてしまう。
実際には、財界企業にはミネラルウォーターの最大手メーカーがしっかり入り込んでいる。これは、当該メーカー自身が福岡本社の企業として、地元の経済団体に人を出向させたり、スポーツチームに協賛したりして経済界にしっかり入り込んでいるからである。それを地銀の支店長出身者一人を採用する程度のことで、公益企業や大手メーカーに入り込もうというのは少し虫が良すぎるだろう。
また銀行出身者に対してもそのように待遇する企業が、一般の営業社員に対してどのようなスタンスをとるかはおのずと明らかである。
すなわち「結果が出なければ」配送担当に戻すか、いじめて辞めさせるかである。本来であれば、稼げる営業社員を育てる土壌があり、予算達成に向けて自発的にPDCAのサイクルを回せる幹部がいる必要があるのだが、このように性急に結果だけを追い求めて人を使い捨てる結果、人を育てる文化も、責任を担える幹部も定着しないことになる。
X社も、まったくそのような企業であった。
もう20年近く毎年10人の新卒採用を続けながら、5年過ぎれば1人も残らない世代が多い。だから幹部はいきおい中途採用が大半になる。実際、以前、福岡営業所の所長代理を中途で募集し採用したが、1年後にまったく同じポストで求人広告を出していた。そういうことを長年やっているうちに人が辞めていくことに何の罪悪感も感じなくなってしまうのだ。
そのうえ社長は高齢になるが、猜疑心の強い性格ゆえ部下に仕事を任せられない。
その結果、後継者はおろか、事業運営に必要な幹部すら育てることができていない。何から何まで自分が書いた手本をなぞらせないと気がすまないたちなのであろう。X社が大きく依存していた有力銭湯チェーンには、未だに70歳の社長が毎日のように先方の年下の窓口担当者に対して足を運んでいた。そういうことは普通なら営業の幹部にさせるだろう。
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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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