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REBIRTH 民事再生600日間の苦闘(51)~屍に鞭打たれる
経済小説
2012年7月 6日 07:00

<屍に鞭打たれる>
 2010年10月、私はX社を退職することにした。

 社長からは、X社での勤務を継続するか否かの意図を示すようにいわれている一方で、今後、X社として新規プロジェクトに取り組む予定であり、そのときは全面的に参画してもらうとも言われていた。

 しかし私は、すでにX社での勤務に良心の呵責を感じていたうえ、諸先輩方の高離職率からして私自身の末路も予想された。この先頑張っても、何年も続けられるものではない。そこで私としては迷惑にならぬよう、当該新規プロジェクトがスタートする前に退社を申し出たのである。

sora_19.jpg 良心の呵責は感じるというものの、退職時点では、X社に対して特段のわだかまりはなかったため、あくまでも引継ぎに万全を期し、円満に退社しようと考えていた。
 しかし、やむを得ないことであろうが、退職の意思を表示するとともに社長や役員の私に対する態度は豹変した。あるとき、管理担当の役員が私と打ち合わせをしたいと言ってきた。あの採用面接時の営業スマイルの役員である。

 「石川さん、今回の退職のことだけれどもね、これは31日付ということだけれども20日にならないかな」と、その役員は言った。
 「そのことなら、社長に退職を申し出た際に、なるべく早くにと言われましたので31日付と申し上げ、了解を得ました」と、私は答えた。
 「営業職ならば引継ぎに時間がかかったりするからね。でも、営業職以外では、当社は退職希望を出した人には早々に退職してもらっているんでね」と、管理担当役員。日々営業社員を詰めるのがもともとの仕事であるだけに詰め方は上手だ。

 「そうはいっても、31日付と申し上げましたし、引継ぎに遺漏のないようにしたいと思います」と、私は答えた。
これに対し、役員は、
 「それはもういいから。それでは、明後日に改めて話をしようか」と言った。
 別に明後日話すことなど何もないのだが。

 会社は、私の退職日を10日間早めてその分の人件費を節約したいということだろう。

 私は以前、X社を辞めていこうとするある管理職に、夕食に行かないかと声をかけ、一杯やったことがある。この管理職もやはり、入社半年くらいから袋叩きにされ、退職を決意していたのだ。私は従業員が退職するときには、わだかまりが残らないように感謝の気持ちをもって送り出さないと、後々の遺恨となると考え、この管理職を飲みに誘ったのだ。

 会社に対するわだかまりをもって社員を辞めさせると、その社員がライバル社に顧客情報を持ち出したりするのでたまったものではない。このときも、私は社長に、社員が辞めるときはわだかまりなく辞めてもらうべきであると力説したのだが、実際には、長年の高離職率の歴史の結果、送別会すらやらない、という社風が定着していたのだった。

 もともと、そのような体質であったうえに、私も退職日を繰り上げてくれなどと、屍に鞭打たれるようなことを言われた。
このような臆面もない申し入れに接し腹立たしく、いろいろな考えが去来した。
 退職日の繰上げを断れば、いろいろと嫌がらせを仕掛けてくるだろう。しかし明確に拒絶すれば、会社は繰上げ要求を取り下げるかもしれない。

(つづく)
【石川 健一】

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▼関連リンク
・REBIRTH 民事再生600日間の苦闘(1)~はじまり

<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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