<第六章 谷本頭取の時代>
クーデター未遂事件(11)
谷本は動き出した。失意のうちに営業本部長から首都圏本部長に左遷された2年半前とは違った立場にいた。谷本は組合出身の取締役4名に早速電話し、笹川を通じて植木から任期途中の退任の申し出があったことを告げた。
谷本は植木が頭取候補として名を上げていた竹下常務には二枚舌を使うことにした。谷本は竹下に電話で、
「植木頭取は前立腺肥大と言っているが、実際は前立腺がんであることを隠していると思うが、竹下常務はどう見ているかね」
と、聞いた。
竹下は、
「笹川常務に植木頭取の病状はどうですかと聞くと、『うん、治療の効果が出て来て、以前と比べると随分良くなってきておられる』と言っているが、どうも違うような気がしています。
それと言うのも最近は頭取室に籠ったままで役員室には顔を出さなくなっています。頭取室に出入りするのは笹川常務だけで、業務連絡などは笹川常務を通じて行なっており、営業本部長の私でさえ月初の取締役会議以降、植木頭取と直接お話をすることができなくなりました。
病院には毎日行っているようですが、やはり谷本専務がおっしゃるように病状はあまり芳しくないのでは思われます」
と話した。
それを聞いた谷本は、
「今日電話したのはそのことなのだが、実は植木頭取は病状が思わしくないため、頭取交代を考えているようだ。
先日笹川常務が来て『植木頭取は次期頭取候補に若手を起用した新しい体制作りを考えており、谷本専務には任期途中ではあるが勇退していただきたい』と言ってきた。
そして君の名前も次期頭取候補として上がっていたが、竹下常務には女性問題があるとか言って口ごもってそれ以上のことは言わなかった。
笹川常務の話し振りから考えてみると、恐らく君は次期頭取候補から外されていると思うし、女性問題が表沙汰になるようであれば役員も外すような言い方であったので、その辺は良く注意していた方がいいよ」
と話した。
続けて、
「今回植木頭取が病気になってから、急に任期途中の僕と、女性問題を口実に竹下常務の二人を退任させようとの動きが出て来たのは、昨年我々が植木頭取交代劇を画策しかけたことが、今になって漏れたのかもしれない」
と話した。
すると電話口の向こうから竹下が、
「電話ではなんですので、明後日会合で東京に行く予定があります。午後3時頃にお寄りしたいのですが、お時間は大丈夫ですか」
と聞いて来た。谷本も丁度その時間は空いており、了解して電話を切った。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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