<第六章 谷本頭取の時代>
クーデター未遂事件(19)
午後1時半を過ぎた頃を見計らって竹下は応接室に一人で入り、首都圏本部に電話を入れた。秘書を通じて電話口に出た谷口はちょうど外出先から帰って来たばかりであった。
竹下は、
「今朝、河辺常務に協力をお願いしたところ、谷本専務に対して任期途中の退任要請があったと聞き、再任してまだ半年しか経たないのにそれは道理に合わないと思って反対すると伝えていた。しかしよく話を聞いてみると、ポスト植木の新体制を築くために、植木頭取自らが身を引くことを決断し、谷本専務にも退任を申し出たものであることがわかった。確かに途中退任を言ってくるのはおかしいが、若手を後継者にする布石であれば植木頭取の言い分も理解できる。後継を選ぶ人事権は頭取にあり、植木頭取の判断に任すべきと思う。谷本専務に協力したい気持ちはやまやまではあるが今回は中立の立場でいたい。旗色を鮮明にするのは勘弁してほしいと言われた」
と、淡々と話しながら説得不足を詫びた。
すると谷本専務からも意外な話が伝わって来た。
「実は、東南支店長の木村敬司取締役と常盤支店長の湯原雅広取締役は、即座に協力を約束してくれたが、西京支店の佐藤常務が河辺常務と同じで、うんと言わないので困っているんだ」
と言った。竹下は
「そうすると今のところ協力を約束したのは、宮下取締役、城戸取締役、木村取締役、湯原取締役の4人と、谷本専務と私の6人ですか」
と、やや力落ちした声で言った。
谷本は、
「河辺君の方はもう説得しても無理かな。いずれにしてもこちらの動きが漏れるようなことがあったら困るので、僕の方からもう一度協力の要請を河辺君にしておこう。また協力を約束してくれた宮下取締役と城戸取締役にも電話を入れておこう。今は佐藤常務に再度協力を要請しているところなんだが、植木頭取とそりが合わない割には、今回はなかなかうんと言ってくれないので困っているんだ。そうはいってもS大学の後輩でもあり、最終的には協力してくれると思う」
と、語った。
続けて、
「河辺君の協力が期待できないとなると、去年取締役になった北九州支店長の桜木に協力要請をしておいた方が良いね。竹下常務の方から連絡してくれないかね。その様子がわかり次第、僕の方からもコンタクトすることにしよう」
と話した。
暫く間をおいて谷本は、
「竹下常務、6人が固まっており過半数には残り2人だが、それが確保できなくても構わないよ。中立の者が3人であれば6対6となり、取締役会は紛糾することになる。そんな一か八かの勝負を植木頭取が取るはずがない。その前に笹川常務を通じて交渉すればいいことなんだ。僕は6人が固まったことでむしろ勝ったと思っている」
と弾むような声になっていた。
竹下は谷本専務のしたたかな深謀遠慮に敬服して、電話を切った。
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