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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(86)
経済小説
2012年7月25日 07:00

<第六章 谷本頭取の時代>

クーデター未遂事件(18)

bn_1.jpg 昼前になったため、各担当部に詰めていた役員が役員室に戻って来ていた。竹下は役員室のドアを開けるとすぐ河辺の机の方に目をやったが、河辺は席には戻っていなかった。役員室には杉村隆副頭取と笹川常務が話しをしているのが見えた。宮下取締役は机の前に置かれた稟議に目を通しており、城戸取締役は審査部長が持って来た稟議の内容について説明を受けていた。
 竹下は宮下と城戸に河辺との話し合いの内容を伝えようと思い暫く新聞を読んでいたが、副頭取や笹川常務も執務していることから断念して、少し早目の昼食を取ることにした。宮下と城戸には昼食に行くとは言わなかったが、気配を感じたのか竹下が一人で食事を摂っているテーブルに二人が近寄って来た。

 早い時間帯であったので、社員食堂はまだ人気は少なかった。海が見える窓辺には早番の女子行員など数組がテーブルで弁当を開いていたが静かであった。竹下は二人にお茶を注ぎながら、
 「先程河辺常務に協力を要請したが、今回は勘弁してくれと言って来た」
 と、河辺とのやり取りをこと細かに説明した。続いて
 「色々と釈明していたが、要するに『どちらにも不義理ができないので中立の立場を取りたい』の一点張りであった。その気持ちもわからないではないが、組合出身の役員同士がお互いに協力すると言う暗黙の了解が崩れてしまった。非常に残念な結果になってしまった」
 と、小さな声で話した。

 宮下が、
 「前回は結束して谷本専務再任に協力したのに、今回中立に回ったのは笹川常務から何か言われたからではないかと思われませんか」
 と、訊いて来た。
 竹下は、
 「どうもそのようなことはないような素振りであった。要は植木頭取と同じ西部大学の先輩後輩の間柄であり、谷本専務にも組合の関係で世話になっている。どちらにも義理があり、今回は中立の立場で居たいと言うことであった」
と、河辺の心境を淡々と語ったが、
 「谷本頭取が誕生した時は、組合出身者の団結を乱した河辺君は許されないと思う。そのことを伝えようと谷本専務に電話したら不在であったのでまた後程、電話を入れるようにしている」
 と、話したところで、正午のチャイムが鳴り、それを合図に多くの社員が詰めかけて来た。3人はお互い何事もなかったかのように普段の会話に戻っていた。

(つづく)
【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」

▼関連リンク
・「維新銀行」~第一部 夜明け前(1)


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