<中堅企業の面接が進む>
その会社は北関東に本社のあるJASDAQ上場のカラオケボックス運営会社だった。
ラーメン屋を親から引き継いだ兄弟が、カラオケボックスに転換して成功、その後廃業したカラオケボックスを安価で買収して出店していく、というビジネスモデルで成長していた。近年は、フィットネスクラブにも手を広げ、同様のパターンで出店を拡大していた。組織戦略としては、これまでカラオケ運営会社が上場していたのを、各業態を束ねる持株会社方式に衣替えしたところであった。
会社グループを再編したということで、管理要員が必要ということが増員の理由だった。そこの管理本部長と面談し、感触も悪くはなかった。
だが、この面接のために交通費を自己負担して上京する、ということの負担が、無職の身には重荷に感じられた。それに、夜行バスの雰囲気にも、ハローワークに出向いたときと同じような、雰囲気からくる疲れを感じた。東京の都心の張り詰めた空気も重く感じられた。
翌日昼前に、はかた号は博多駅の交通センターに着いた。福岡の緩い空気に触れて、ほっと安心したものである。
その後もいくつか東京の企業の面接の話があった。しかし、通常一次面接では企業が遠隔地からの交通費を負担することはないため、その都度上京する気になれず、かといって、まとめて面接を設定して、費用体効果を改善しようにも求人の数が限られた。それだけでなく、首都圏の求人でも先ほど触れたような中堅企業では提示される年収も800万円程度であった。
福岡にマンションまで保有している私が、一家3人で東京に引っ越すとなると相当の費用がかかるように思われた。
それに東京の物価は高い。
ちょっと美味しいランチは2,000円以上であり、週末にお台場などに遊びに行けば電車代だけで千円札がどんどん飛んでいくようなところである。
さらに、東京では片道60分の通勤は短い部類に入るのに対し、日常を渋滞や通勤地獄のない福岡でコンパクトに生活することで得られる余裕時間。
福岡で生活すればこの余裕時間を、子供の相手や、読書などで豊かに使えることを考えると、東京での800万円など、福岡に置き換えると600万円程度の価値しかないと私は考えた。
このようなことから、当初考えていた東京に出稼ぎにいこうという気持ちはだんだん萎えてきてしまった。
いっぽうで、11月から12月にかけて福岡でいくつかの企業の面接が進んだ。
大手商社の九州子会社の経営企画、大手家具チェーンの専門職中途採用、久留米本社の建機レンタル会社の経営企画等である。健康食品通販会社の管理本部長のポストもあった。このようなことから年内の状態としては、年明けには新しい職が決まるだろうという楽観的な気分になった。
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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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