<契約社員として働く>
同時に、次の勤務が始まるまでの間のセイフティネットについても準備を始めた。
先に離職票の件でハローワークに出向いたときに、あなたはあと2カ月半を契約社員で働けば、その後即、失業給付の対象になる旨職員が教えてくれた。
年収の希望水準を下げれば、そこまで時間がかかることはないように思われたが、念のために失業給付のセイフティネットを確保することにしたのだ。
そこで1月に入り私は、Lupraという会社を立ち上げ、スタッフ3名で頑張っている黒田会長に、失業給付の受給までに必要な雇用期間の話をして、最小限度の給料でいいからと契約社員として雇用してもらうことにしたのだ。
黒田会長はちょうど不動産管理事業を立ち上げようとしているところで、その準備のために要員を必要としていた。
黒田会長は、私の窮状を察してか、契約社員としての雇用を快く了承してくれた。
このようにして2011年1月中旬より、私は契約社員として仕事をすることになった。
合間に転職活動をしながらである。
契約社員ながら、仕事ができる、というのはこんなに充実感があるものか、と思った。
黒田会長が設立した会社だけあって、DKホールディングス以来顔見知りのお取引先が毎日のように訪れる。このような人たちも、私がLupraに合流するのを見て(この時はまだ転職活動中であったが)一様に歓迎してくれた。
懇意のビルオーナーやお取引先。
Lupraの資本金は、1,000万円だが、本当の設立基盤は、DKホールディングスのオーナーズクラブおよび協力会から続く、この仲間の輪だった。
懸案であった来年度の娘の学童保育の申請も、私の勤務先をLupraと記入した。
こうして少額ながら収入も入るようになった。
私は、大学卒業以来22年を間断なくサラリーマンとして過ごし、幸運にも、その期間の大半を比較的恵まれた待遇を受けてくることができた。このため、それまで、預金通帳の残高のことなど意識したことはなかった。しかし、3カ月ぶりに振込まれた契約社員としての給与は、少額ながら砂糖水のように甘い味がした。44歳で無職を経験し、そこで初めてお金の本当の味を知ったのだった。
私と同じように、40歳台で勤務先の倒産や、希望退職の強要などにより退職を余儀なくされる人は多い。特にひとつの大企業での勤務を貫いて来た人などは、それまで組織に守られていただけあって、相当に堪えるようだ。退職後、半年も1年も次の職が決まらない人も珍しくない。
そうなると、自宅での肩身も狭くなる。妻に泣かれたり、子どもからも軽蔑されているような気持ちになってしまうこともある。そうなると、ますます覇気がなくなり、面接で好印象を与えられず再就職が遠くなる。
再就職市場では、20代、30代の若手との競合にもなる。吸収力、バイタリティ、それに実務能力では、40代が彼らに打ち勝つことは簡単ではない。
それまでの同じ職種の仕事に就くことも難しい。
企業は総じて一般社員の仕事であれば、若い人に任せたい。その方が、元気もいいし給料も安いからだ。40代になると、よほどのマネジメント経験又は特殊なスキルがないと再就職すること自体が困難になり、その場合は、フルコミッションの営業が唯一の可能性となる。
そうすると不況時の40代以上の転職は、極めて可能性が限られてくる。
人材紹介サイトに登録すると、「スカウトを待つ」という機能があるが、私がこれに登録してみたら、いくつかは、新興企業の経営企画など意図するような案件が寄せられてきた。但し、これもスカウトなどというのは大げさで、「会社説明会への呼び込み」とでもいいかえるのが適切と思う。しかし、それ以上に多く寄せられるのはコンビニや中古車買取店などフランチャイズビジネスの自営オーナーの募集、それに大手アパートメーカーの歩合制営業職であった。
いずれにせよ、ここまで追い詰められたら、できる仕事を何でもするしかない。今、コンビニなどで深夜のパートタイマーを募集すると中高年男性の応募が殺到するそうだ。深夜時間帯なら少しだけ時給が高く、それが生活費の足しになるからだ。しかし、それも一時しのぎでしかない。最終的には、条件を落としてでもあう仕事を探すか、自営を考えるか、起業をするか、歩合制の仕事をするか、くらいしか選択肢はない。
<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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