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REBIRTH 民事再生600日間の苦闘(72)~再出発(前)
経済小説
2012年8月 7日 07:00

<再出発>
 2012年2月、私は先に述べたように転職活動を続けるいっぽうで契約社員としてLupraに勤務し、不動産管理事業の準備に当たっていた。

pc_4.jpg 私を入れてもわずか5人の会社だが、社長を中心に集中的に仕事をし、15億円分の物件を売買していた。(不動産の場合、粗利益率は製造業や小売業のように大きくはならないが。)
 これに加え、不動産管理事業を立ち上げ、当初の収益は非常に小さいながらも、この小さい種を育て、大きくしていく。これは、大変に充実した仕事であった。

 もちろん、現実は厳しい。当初は、ある身内所有の10数戸のアパートを管理し、その後管理物件を増やすということであるが、不動産管理の手数料率の相場は5%である。だから、家賃5万円の10戸のアパートを1カ月管理しても、その手数料は2万5,000円に過ぎない。反面、いったん管理を始めると、滅多なことでは管理の切替は生じないため、管理戸数を増やしていくことで徐々に手数料収入が累積し、会社の基盤が安定していくのである。

 そうしたことを考えていた2月の中旬だった。
 「石川君、今度社内旅行にいくけど、あんたも行かん?」と黒田会長にいわれた。
 
 仕事をしながら、事務の女性が旅行代理店と打合せしている様子が見え、また例によって皆で社員旅行にいくのだろうな、ということはわかっていた。DKホールディングスでは毎年2回、小遣付で社員全員を旅行に連れて行っていたからだ。
 Lupraは、創業間もない段階ゆえ、年に1回近場の旅行に留めていたが、それでも黒田会長は、頑なにポリシーは守っているのだと理解された。

 ただ、私は転職活動中の契約社員の立場であり、それであれば社員旅行は対象外だろうと考えていた。ところが、いっしょに旅行に行こう、というのである。それも屋久島に行くという。

 私は、やや複雑な気分になった。家内になんていおうか、と。
家内は、私が失職してから、家計簿をつけながら毎晩のように預金残高が減少してゆく通帳とにらめっこをして、神経をすり減らしている。
 「会長から、社員旅行にいっしょにいこうといわれたけど、どうしようかねえ。」こう打ち明けると、家内はいった。
 「そんなことよりも、正社員になるのが先やろもん。」
 「そうだよねえ。」私は、家内のいうことをもっともと思った。

 さらに、数日してLupraの事務所にいた私に黒田会長からの電話が入った。
 「あんたも、また転職活動をしようと思うけど、そろそろうちでやっていくことを考えんね。」
 「・・・・・・そうですか、それでは家内とも話し合います。改めて相談させてください。」
 こう切り出されて、私も決断しようと考えた。

(つづく)
【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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