<第六章 谷本頭取の時代>
クーデター未遂事件(33)
植木と笹川は、谷本が過半数の役員が谷本の途中退任に反対しているとの発言と、頭取職の禅譲を求めて来たことは、谷本を首謀者とするクーデターだとの考えで一致した。
植木はそれを阻止するためには、過半数の役員を確保できるかどうかにかかっていると思った。
渋い表情を浮かべながら植木は、
「谷本君は過半数を確保したと言っているが、誰と誰が谷本君に協力していると思われるかね」
と、笹川に尋ねた。
笹川は、
「恐らく、組合幹部出身の竹下常務、河辺常務、宮下取締役、城戸取締役、それと昨年役員になった桜木取締役を含め、5人の役員たちではないでしょうか。それと人事部で谷本専務の部下であった木村取締役、谷本専務の大学の後輩に当たる湯原取締役の7人。それに谷本専務本人を加えると、確かに数の上では過半数の8人にはなりますね」
と、指を折りながら答えた。
組合出身の役員の名を呟くように挙げた植木は、
「笹川常務、本当に組合出身の役員すべてが、谷本君に従うのだろうかね」
と、首を捻りながら言った。
笹川は、
「私もそう思うんです。ただ気になるのは、谷本専務のしたたかな動きなのです。
というのは、植木頭取が任期途中の退任を要求するのはおかしい。つまり任期2年を株主総会で再任されても、途中で退任してくれというのは許されない。こんなことを認めれば、いつあなたたちも任期途中の退任を言われることになるかわからないよ。だから阻止に協力して下さい、と同情を買う作戦で過半数を確保したのだと思います。しかも植木頭取は前立腺がんで症状は良くない。このまま植木頭取に維新銀行の経営を任せるわけにはいかないと言って、仲間を糾合しているように思えます」
と、述べた。
続けて、
「我々には、今こそ頭取は交代しその後継に谷本を指名せよ、そうでないと取締役会で反対の動議を提出するぞと、言葉には出さなかったが言外に脅しを掛けられているような感じを受けました」 と、溜息混じりに話した。
植木は
「これは、谷本君が今まで培った組合出身の役員を利用したクーデターだな」
と、忌々しそうな話し振りであった。
笹川は、
「我々が谷本専務の任期途中の退任を強行し、かつ頭取職を禅譲しなかった場合のことですが、谷本専務がやりかねないのは、5月の臨時決算役員会議で、議長の植木頭取が谷本専務勇退の役員人事案を提案すると、即座に植木頭取や私の退任を求める動議を逆に提案する、という暴挙と言うか、クーデターを実行する可能性も否定できません。そうなるとどちらが勝っても負けても維新銀行にとって大スキャンダルになると思われます」
と、深刻な事態になる恐れを口にした。
「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」
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