<戦略と実行がかみ合った>
一人ひとりに目標を理解させ、それに向かって、個人個人が成長。佐々木監督の戦略と、澤、宮間を中心としたチームの戦略の実行が、うまくかみ合った。コミュニケーションを密にすることによって、チーム内の活力を生み出し、勝つためのモチベーションを高く保ち、ほかの組織に対しての競争力を獲得することに成功した。4度の五輪を経験している澤の存在は、大きかった。組織全体にとっての精神的支柱となり、若手の目標ともなった。
指揮官として引っ張ってきた佐々木監督のリーダーとしての能力、人柄の魅力もなでしこジャパンの組織力強化に大きく寄与してきた。佐々木監督は、選手たちから「ノリさん」と呼ばれ、親しまれている。厳と仁をうまく使い分ける上司の理想像に近い 。
<何でも言い合えるチームの力>
なでしこに関して、印象的な場面がある。昨年のワールドカップのアメリカとの決勝戦、延長戦で決着が付かず、これからPK戦が始まるという円陣でのシーンだ。佐々木監督を中心としたなでしこたちの輪は、みんな笑っていた。
優勝のかかった緊迫感のなかで、「全員が笑顔を出せる」「笑顔になれる」「笑顔にさせることができる」ということは、尋常のコミュニケーションでは成り立たない。それまでに、積み上げたもの(連帯感、信頼感、団結、お互いをよく知っていること)がなければ、優勝を決める場面でなごやかな雰囲気を作ることはできないだろう。
佐々木監督は、あの場面で、「澤が、PKが苦手で、蹴りたくないと言っている」という話をしていたという。澤を「10番目にPKを蹴る選手」(直前にDFの岩清水が退場になっていたため、実質、最後のキッカー)に監督が選んだところ、「澤さん、ずるい」(笑)など選手から声が上がり、なごやかなムードになった佐々木監督が、「さっき、延長戦で仕事をした(ゴールを決めた)からいいだろう」と言うと、さらに笑いが起こった。
長らく全日本を引っ張ってきた大先輩・澤に、緊迫の場面で、「ずるい」(笑)と言えるムードを長期的に作り出し、組織にとってのわかれ目、要所となる場面で、まっすぐに、なごやかに、本音を言い合える組織づくりを心がけてきたリーダーの魅力と能力。なでしこジャパンの組織力強化、結果としての銀メダルに、佐々木監督の力は不可欠だった。
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