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大さんのシニア・リポート~第10回 高齢者が騙されるというけれど(4)
行政
2013年4月22日 07:00

 警察庁が、「"振り込め詐欺"という言葉は、手渡し詐欺が増えた現在、相応しくない」という理由に新しい言葉を公募している。確かに、「投資詐欺」「未公開株詐欺」「社員権詐欺」など「振り込め詐欺」が必ずしも「息子や孫を騙って高齢者を騙す」という限定的な詐欺事件ではなくなった。だったら、「オレオレ詐欺」という言葉に戻ればいい。
 その「オレオレ詐欺」の全国の被害額が、一日4千数百万円だと同庁が公表した。想像を超える金額だと驚く読者も多いと思う。でも、実際の被害額はこんなもんじゃない。高齢者は若い人よりも群を抜いてプライドが高い。「騙された」とわかると、警察に届けるどころか、「なかったことにしよう」と泣き寝入りする場合が少なくない。公表されている被害額の1.5倍。6,000万円を超す金額だと推測する。1年では200億円を遥かに超す。すごい被害金額である。

ds_3.jpg 前回紹介したように、先月12日、神奈川県川崎市に住む70歳代の女性が、甥を騙る男性から電話を受け、用意した4,500万円を受け取りに来た男に手渡すという「手渡し詐欺」に遭っている。金額もさることながら「疑いもなく手渡す」という行為に、確かに驚かされるだろう。前年6月26日の夕方、埼玉県川越市に住む無職の男性(79歳)が、株に会社の金をつぎ込んだという長男を騙る男から電話を受け、翌日、池袋のサンシャインビル前で待つ税務署の職員(と名乗る男)に1,400万円を手渡している。その翌日にも、「足りない」という長男を騙る男から電話を受け、同じ場所、同じ男に600万円を手渡した。計2,000万円である。
 前者は金融機関で2,100万円を下し、自宅にあった2,400万円を合わせて4,500万円を手渡している。後者は2度にわたり同じ男に手渡している。「馬鹿じゃないか」と読者の多くはいうだろう。でも、騙された彼らの気持ちがわたしには痛いほどわかるのである。何しろ、私自身が彼らと同じように騙されたのだから。自信を持っていう。「騙される」のである。

 前出の両人は、その後甥と長男に確認している。確認というのは、「間違いなく渡したよ。安心して」という確認である。でも、それぞれホンモノの甥と長男が電話口に出た瞬間に、「騙された!」と気付いたに違いない。なぜなら、その声は'間違いなく'甥であり長男の声なのだから。恥ずかしながら私もそうだった。振り込んだ後、自省を促すために北海道にいる次男に手紙を書いた。2日後に次男から電話があった。その声を聞いた瞬間、「あっ、騙された」と思った。「お父さん、騙されたね。ばっかじゃないの」と難詰するその声は間違いなく「次男の声そのもの」だったのだから。じゃ、あの電話の声は誰だったの?どこにいったの? わたしの頭は完全に迷走していた。わたしが詐取された2年後の2010年5月25日午後7時25分、今度は長男を騙って電話が入った。間違いなく「あの男の声」だった。わたしは取材用レコーダーの録音ボタンをオンにした。それが拙著の巻末に付けたCDである。そこにはわたしと容疑者との息詰まるやりとりが記録されている。

ds_4.jpg 詐欺師は同じ人に複数回コンタクトを取る。これが彼らの常道である。川越市の高齢男性が2度にわたり同じ男に手渡したのは特別なことではない。「学習能力がないのか!」と訝る読者も多いに違いない。でも、これは学習能力云々のみでは片づけられない問題が含まれている。
 詐欺師は相手を騙すことに(のみ)関しては天才である。まともな応対では絶対に叶わない。わたしは逆説的に提案したい。詐欺師たちが持つ「詐欺力」を、われわれ一般庶民(消費者)が身に着ける努力をすべきである。「詐欺力とは何ごとだ。相手は悪人だぞ」と抗議を受けるのは先刻承知である。「詐欺をしろ」とはいっていない。「詐欺力を身に着けるべきだ」といっているのである。
 ヒントは拙著を推薦してくれた評論家の宮崎学氏の言葉。彼は拙著の帯で、「『法』という物差しから見ると、騙す側はまちがいなく『違法』つまり悪である。日常生活の『掟』『知恵』から見ると、騙される側のほうがはるかに問題が多い(略)」といい切る。そう、いつまでも「騙す方が'悪'で、騙される方が'善'」では、悪徳・詐欺商法はなくならない。

 次回は「詐欺力」について具体的に詳報したい。高齢者が自衛するには敵から学ぶ(敵を知る)ことも重要である。

(つづく)
【大山 眞人】

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<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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