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大さんのシニア・リポート~第11回 アンケートに見る理想と現実の差(後)
行政
2013年6月21日 07:00

設問(2)終末のために身辺整理をしておくことは大切だと思いますか?
 「思う」24名、「思わない」1名、「どちらともいえない」3名、無表記4名。

0620_touronkai.jpg 単純に身の回りの整理という発想で問いかけてみたのだが、これも設問(1)とリンクして、「子どもたちに迷惑をかけたくない」という強い思いが込められていた。たとえば、「残された人が困るから」、「死後業者に処分を委託するにしても、業者という他人の目に触れさせたくないものもある。その場に居合わせる身内(子どもたち)が気の毒」など。「どちらともいえない」と回答した1人は、「整理できずに死ぬ場合もある。この場合身内に迷惑をかけてもいいのではないか。身内のなかには、喜んで片づけてくれる人もいると思う。その人への思い出を先に消してしまうのはいかがなものか」という答えもあった。
 親しい人との別れには、当人(亡くなった人)が予期できない思い出というものが介在することも多い。「形見分け」というのは、片身分けとも書く。衣類など身代わりになるものが多いので、スソワケともいう。着物のなかに死者の霊が宿ると考えられていた時代の名残で、遺産分割の意味も含んでいる」(ブリタニカ)。「故人を偲ぶ」という意味合いも込められているとしたら、無理して処分することも考えものである。もっとも、「思わない」と答えた1人は、「整理するということが、自分の死を確認する作業のようで嫌だ」という。死を身近なものとして考えたくないのだ。

設問(3)「尊厳死について」あなたが植物人間になっても生きていたいと思いますか?身内の場合はいかがですか?
 「思う」0名、「思わない」28名、「どちらでもない」1名、無表記3名。

 「植物人間になって家族に迷惑をかけたくない。自然死を選ぶ」、「延命治療は治療費の増大を招くだけ」、「生かされているだけでは本人も周りの人も幸せとはいえない」と圧倒的に「植物人間として生きていくこと」を拒否している。ところが、自分以外の友人や身内になると、状況が一変する。「身内の場合は、植物人間になっても長く生きていてほしい」、「自分は植物人間を拒否するが、身内や親戚、友人の場合には大いに迷うと思う」、「それぞれの死に立ち会う家族に任せるしかない」、「医療過誤で訴えられる事件が後を絶たない。医者の立場で加療を止めることは難しい。植物人間が増えるのはそのためとも考えられる」と医療評論家並に解説する人も現れた。
 ここでも「自分の意志よりも、家族への思いを優先する」という考え方が主流を占めた。でも、「本音」と「家族への思い」が交錯しているのが見て取れる。「植物人間にはなりたくない」と思っていても、「家族が思うなら」と曖昧になる。その思いが、「身内の場合は生きていてほしい」という言葉になって表れるのだろう。

それは「自分の葬式(お墓)について」という設問でも同様の回答が目立った。「葬式代を子どもたちに負担させたくないので、すでに用意している」、「田舎にある墓も子どもたちには無縁。生きているうちに何とかしたい」、「直葬でいい」など、子どもたちへの配慮が示されている。

0620_siryo1.jpg

 共通する解決策は、「生きているうちに、身内に公表しておくこと」ということだ。書面にすればなおいい。しかし、討論会に参加した高齢者のなかに、子どもたちと相談したことも、書面にして残している人も皆無だった。これをどう考えればいいのだろうか。
0620_g2 vol.13.jpg 前述の矢部武氏によれば「個人主義国家のアメリカに孤立死が少なく、(個人主義を嫌う)日本に多い」。その理由は、徹底した個人主義国家ゆえアメリカでは、(独居)高齢者が受ける社会的救済制度が日本より遥かに整っているからだという。個人が自立しているアメリカでは、「高齢になれば家族が看る」という発想が希薄だ。介護保険や生活保護制度が家族世帯を前提に設計されてきた日本とは大きな違いだと指摘する。「2012年8月に『USAトゥデイ』紙が発表した調査では、アメリカの高齢者の65%が現在の生活に満足し、75%が将来を楽観視していることがわかった。一方、日本の内閣府調査(2009年)では、60歳以上の独居高齢者の64.7%が孤立死を身近に感じると答えている」(講談社『g2』(vol.13))。社会的救済制度の差が、アンケートの内容にも影を落としているといえなくもない。

(了)
【大山 眞人】

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<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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