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大さんのシニア・リポート~第12回 高齢者に優しいダイシン百貨店探訪記(3)
特別取材
2013年8月26日 07:00

nisiyama.jpg 東京都大田区大森に、日本一高齢者に優しい百貨店「ダイシン百貨店」がある。今回は、潰れかかったダイシンを再生した西山敷という男を中心に、展開していきたい。店に出入りしていた店舗設計の男が、なぜ再建に奔走したのか。再生のキーワードを「超・地域密着型」の経営に求めたのはなぜか。結果としてダイシンは、高齢者に優しい百貨店として世間の耳目を集めることになった。西山が採った経営方針は、それまでとは真逆の方法だった。「死に筋商品」、「レトロな売り場」、「狭い商圏」。それが功を奏したのである。

 ダイシン百貨店は1945(昭和20)年、長野県出身の竹内義年という男が、闇市でリンゴを売ったのが最初である。それを元に48年に八百屋を法人化して「信濃屋」を起こし、64年にダイシン百貨店としてスタートさせた。ちょうどこの年は、東京オリンピックの年で経済は上向き、ダイシン百貨店もその波に乗り、次々と支店を出して急成長を遂げた。
 ところが2004年、二代目社長の急逝で事態が一変する。突然、経営不振に陥り、倒産必至の状態にまで追い詰められたのである。社内には再建できる人事が皆無。設計の仕事ばかりではなく、財務の状態についても精通し、「社内事情と不動産、銀行対策に長けている人材」と、店舗設計業者の西山に白羽の矢が立てられたのである。

 西山は7店舗のうち、6店舗を強硬閉鎖。まさに電光石火の早業だった。「迅速」と「覚悟」が西山の経営哲学である。創業家の全役員を、肩書はそのままにして給料をダウン。仕事の現場に戻した。西山は「ヒットラー(独裁者)をやった」と自嘲気味に話すが、再建にはワントップで強引に突き進まなければならない場合もある。躊躇していると、たちまち創業家の逆襲を食らう。こうしてほぼ2年で身ぎれいにし、経営を黒字化させた。

 06年、本店ひとつで再出発させた西山が次に打った手は、「社員の意識改革」だった。まず「全社員あいさつ運動」である。ダイシンの社員は生え抜きが多く、真面目だが世間知らずで、日常的な規律の順守や挨拶にも無頓着な社員が多かった。そこで「あいさつしないやつはクビ」を宣言し、実際そうした。「昨日と同じことだけをしている社員はいらない」とも宣言した。

 一方で、「良い仕事をするには、旨いものを食うことが必要」と毎月誕生会を開いて、店で用意できる最上の食事を提供した。小売業は女性社員が多い職場である。陰湿ないじめも多い。「女性の敵は女性」に気付いた西山は、「SS(シニアスタッフ)」というポストを新設し、信用のおけるベテラン女性社員5名を任命。女性社員の相談に応じた。たちまちいじめやパワハラが姿を消した。こうして、社内に残されていた守旧的意識や人物を排除した。

 しかし、西山の計画が完全に履行されたわけではない。「半径500メートル圏内シェア100%」――つまり、地域の全住民をダイシン百貨店に取り込む。こんな無謀な決断をさせたのは、「どんなに目新しい経営方針を社員に示しても、それを現場で実践に移す社員にその力がなかったら絵に描いた餅にすぎない」ということに気付いていたからだ。

book.jpg 西山の経営者としての鋭さは、すべてにおいて「現実に即した経営」を実践したことだと私は思う。机上の作戦を強行しても、現場は混乱するだけである。「一将功成りて万骨枯る」では意味がない。
 西山は、それまで培ってきた社員の意識とスキル、そして経験を重視し、それを丸ごと利用したのである。古参の社員は商品知識が豊富で、客との応対も時間をかける。"ユックリズム商法"である。「時は金なり」を地で行く大手の企業から見れば、時間をかけ、納得のうえに買い求めていただく"ダイシン流"では、経営効率に問題が生じる。
 ところが、西山はあえて"ダイシン流"を踏襲した。ダイシンは「企業ではない。商店だ」という基本理念がある。こうした経営方針の先に、「高齢者に優しい百貨店」、そして「超・地域密着経営」に行き着くのは自明の理であった。

 「昔は、誰の子どもでも地域全体で見守ってきた。叱るときは、他人の子どもでも叱った。地域の財産という考え方があった。だから働き手は安心して仕事に打ち込むことができた。今は地域社会がバラバラ。これを取り戻すことができない限り日本の再生はあり得ない」「自分のことしか考えない人間が増えた。他人を思いやれない社員がいる会社は潰れる」と西山は語る。

(つづく)

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<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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