2024年04月20日( 土 )

文化論としての「アキバカルチャー」!(3)

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インテグリカルチャー(株) 代表 羽生 雄毅 氏

知人と赤の他人の間にもう1つ層が存在する

 ――前回、日本人が正しく「アキバカルチャー」を早く捉えないと、世界の「OTAKUネイティブ」から見放されてしまう可能性があるというお話をお聞きしました。それを防ぐためにも、「OTAKUネイティブ」の行動特徴をもう少し教えて頂けますか。

 羽生 行動特徴は、さきほど少し触れさせて頂いた「デジタルネイティブ」と同じです。
 ある象徴的なネットスラングに「おまいら」というのがあります。本来であれば「お前等」もしくは「おまえら」と表記すべき言葉ですが、あえて言葉を崩して表現することで、みんなの事をカジュアルに親近感を込めて指し示します。この言葉は、そのユーザーの所属するオンラインコミュニティへの帰属意識の顕れだと思います。この呼び名や意識自体は、掲示板サイトなどによりユーザー同士の交流が活発になってきた頃から存在しましたが、これが常識化、定着しているのが、デジタルネイティブの国内外共通の特徴です。

net 私たちを取り巻く環境は、両親や兄弟などの「家族」そして「親戚」、「友達」、「恋人」、「知人」、「赤の他人」というのが一般的です。しかし、デジタルネイティブ全般、そして特に「OTAKUネイティブ」の人の多くには、「知人」と「赤の他人」の間にもう1つレイヤー(層)が存在します。それは、「いつもアクセスするサイトで見かける、名前は知らない、ネット上でしか会話したことがない、しかし趣味は同じである」という層で、「いつでも友人に格上げできる可能性がある」と考えられる人たちです。同じアニメのコスプレをしているとか、同じキャラクターが好きだ、という人たちがそうです。

無理に友達にする必要性を感じていないこと

 ――なるほど、それは面白いですね。では、その層の人たちは何をきっかけに「赤の他人」から「友人」に変わるのですか。

 羽生 それこそ、マンガ・アニメなどを介して、相互にネットで個人的なメッセージを交換したり、同じコミュニティのオフ会で知りあったりすることによって友達に格上げされることもあります。
しかし、ここで最も重要なことは、この「不特定多数の、趣味を同じくする友達候補」を「OTAKUネイティブ」は、無理に友達にする必要性を感じていないことだと思います。
 「ツイッターのフォロワー」や「同じアニメのコスプレイヤー」、「同じアイドルのファンたち」などは、その現在のママで、感情を共有し充分に満足しています。
 このことは、日本では特に、「デジタルネイティブ」世代より前の先輩の方々に違和感を与え、時には色眼鏡で見られることもあります。しかし、この世代について言えば、ごく自然なことなのです。

コンテンツが乗る土台「文化」の本質を掴む

 ――ところで、羽生さんは、近刊『OTAKU エリート』(講談社+α新書)で、オタク文化に代表されたこれまでの「アキバカルチャー」と今世界で流行している「グローバル・アキバカルチャー」は似て非なるものである、と言われています。それはどういうことでしょうか。

 羽生 先ず、大原則として、表面的に顕れる「コンテンツ」には「文化」という土台が必ずあります。ところが、その土台である文化が全く違うものであっても、その上に乗っているコンテンツが同じである場合は、一般的には、深く考察しない限り、同じものに見えてしまうので注意が必要なのです。

 例えば、「アキバカルチャー」は、日本製マンガ・アニメに象徴されるコンテンツの“オタク”や“萌え”などに代表されることが多いと思います。すると、そこから、すぐ「アキバカルチャーが世界で流行っているというのは、それは“オタク”や“萌え”が受けているのだな」と勘違いをしてしまいます。

 その結果、「アキバカルチャー」には「日本が誤解される」という批判も絶えないのです。
 しかも、海外においては、ビジネス的にも上手くいかなくなります。これは早く気づかないととても危険なのです。なぜかと申し上げれば、ある瞬間は上手くいっているように見えますが、理解不足のまま突き進み、コンテンツ展開の方法を誤れば、「アキバカルチャー」はすぐに忘れ去られてしまうからです。

 私たちはあくまでも、「アキバカルチャー」というコンテンツが乗っている土台である「文化」の本質を掴む必要があるのです。私はその課題を解くキーワードの1つとして、「サイバーカルチャー」という言葉を挙げたいと思います。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
hanyu羽生 雄毅(はにゅう・ゆうき)
インテグリカルチャー(株) 代表。
 1985年生まれ。2006年オックスフォード大学化学科卒業。2010年同大学院博士課程修了。
在学中は科学ソサエティー会長やアジア太平洋ソサエティーの委員を務める。帰国後は、東北大学と東芝研究開発センターを経て2015年にインテグリカルチャー(株)を設立。日本初の人工培養肉プロジェクト「Shojin meat Project」を立ちあげる。その一方で、オックスフォード大学在学中から、2ちゃんねるやニコニコ動画のヘビーユーザーであり、帰国後も同人誌即売会やイベントなどの「オタク活動」を行っている。

 
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