2024年04月19日( 金 )

今、インド社会を根底から覆す改革が進行中!(4)

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(株)インド・ビジネス・センター 代表取締役社長 島田 卓 氏

 英国の著名な経済学者であるアンガス・マディソンの統計によれば、19世紀初めまでは中国とインドが世界のGDPの半分近く(1820年の統計で29%を中国、16%をインド)を占めている。今後の世界経済を考える場合でも、世界人口の約4割を占める中国とインドを中心に、アジアが世界の中心的存在になる「リ・オリエント」のシナリオは変わらないという経済学者は多い。その中国とインドであるが、昨今は明暗を分けている。中国の経済成長率は2015年6.9%で16年は6.7%の減少予測に対し、インドは15年7.3%で、16年は7.8%の拡大予測となった(世界銀行「世界経済見通し」16年1月公表)。
 では、今後大きな発展が見込まれるインドと日本は現在、どのような経済関係にあるのか。その両国の未来には、どんな青写真が描けるのか。インド政財界に幅広いネットワークを持つ、インドビジネスの第一人者の島田卓氏((株)インド・ビジネス・センター代表取締役社長)に聞いた。島田氏によると、今インドでは、14年就任のナレンドラ・モディ首相の下でインド社会を根底から覆す大改革が進行中であると言う。

進めていく手順を事前にとことん詰めてください

 ――インド現地でビジネスを展開するにあたり、気をつける点は何かありますか。

 島田 インドでビジネスを行う場合、当然相手はインド人になります。そんな時、念頭におくべきことを私は、「2C+2T+P」というキーワードでご説明しています。
 先ず2Cです。これはContinuity(継続性)と、Consistency(一貫性)のことです。インドの人に、一貫性を持たせつつ、それを継続的に行わせることは非常に難しいことです。そこで、最初から相手にこちらの意図を全て理解してもらおうとは考えず、こちらで欲しい内容になるような解答用紙のスケルトンを作成、その通りにレポートしてもらうことが重要です。自分の求める形を明示し、それを主張していくことがポイントです。このことを繰り返すことによって2Cは満足されます。

 次に2Tです。これはTransparency(透明性)と Timing(タイミング)のことです。
ビジネスをやる上では徹底した透明性を求めて行く必要があります。いいかげんな説明はもとより、聞くからに立派な説明でも、拠って立つ根拠が明確でない場合には、何でそういうことになるのか、徹底的に説明を求めることが必要です。

 コンサルテーションの現場で、「インド人のパートナーがそう言っているので、そう言ったことは不可能なのですか」という類の質問をよく受けます。こちらから、「できないという根拠を出してもらいましたか」と聞くと、「できないと言っているので・・・」という回答が返ってきます。これではインド人と渡り合えません。明確な根拠が示され、それによる説明が妥当と思えない限り、納得してはいけません。

 また、そういったことの説明や仕事をしていく上でのタイミングも重要です。インド人はものごとを積み上げ方式で考える傾向にあります。どんなに立派なレポートでも、納期を過ぎたレポートなんて、一文にもならないことを徹底して分からせないといけません。進めていく手順を事前にとことん詰めて下さい。つまり、最後のP(Predictable、予見できる)を条件とし、仕事の進め方を身に付けさせる必要があるのです。

合理的なリスクに果敢にチャレンジする気概

 ――最後にこれからインドに進出を考えている中小企業はじめ、企業経営者にアドバイスをいただけますか。

 島田 今、インド人技術者(ITや自動車関連産業などのソフト頭脳)が年間数万人単位で、
米国から帰国しています。欧米企業のインド進出は加速度をつけて進んでいます。インドは確実に変わりつつあります。日本企業の海外進出には二番煎じの「ローリスク、ローリターン」が好まれますが、活路を見出すためには、ファーストランナーになり、合理的なリスクに果敢にチャレンジする気概を持つことが重要です。変われるか変われないかではなく、変わらなければ日本の将来もおぼつかなくなります。中小企業を含めた日本企業全体の変身(グローバル化)が求められていると思います。

人口ボーナスが一変して悪夢に変わる可能性

日印中の人口構成 日印中の人口構成

 モディ首相陣頭指揮のもとに、インドではインド社会を根底から覆す改革が進んでいます。では、インドの将来に死角はないのかと言いますと大ありなのです。

 2006年6月に来日したインドのカマル・ナート商工相は、「インドは25歳以下の若者人口が半分以上を占め、熟練労働者も豊富である」と強調、「高齢化が進む日本の産業界との相互補完ができる」と日本政府にエールを送りました。これは事実です。インドの現在の経済規模はアセアン10カ国の総計とほぼ同じで、毎年約2,400万人が成人します。日本の約20倍です。

 しかし、ここには大きな落とし穴があるのです。インドでは、GDPの2割に満たない農業部門に労働人口の6割が集中しています。一方、GDPの6割を占めるIT部門などで吸収できる労働人口はわずか30万人に過ぎません。このことは何を意味するのでしょうか。そうです、もし、若者の雇用が創出できなかった場合、人口ボーナスが一変して、「Demographic Nightmare」(巨大人口がもたらす悪夢)となってしまうのです。

 先にお話したモディ首相の進める6つのスローガンの1つ「MAKE IN INDIA」では、GDPに占める製造業の割合を2022年までに現在の15%から25%に引き上げ、1億人の雇用を創出すると公約しています。その実現のため、技術力と資金力のある日本企業、特にメーカーの進出、協力を望んでいます。

 日本はモノづくり大国と言われて久しいですが、少子高齢化で後継者も少なく、毎年中小企業約7万社が廃業しています。インド市場は内需不足のため、国内での業績拡大が思うようにいかない日本企業にとっても大変魅力のあるものになると考えています。

日本とインド相互の過不足を埋めていくこと

 私はモディ首相の現在のインド改革に期待しています。世界の国々が分かち難く結びつけられ、自国だけで繁栄を謳歌する時代は去りました。日本などの先進国が豊かであり続けるためには、新興国のサポートをする一方で、彼らの力を謙虚な気持ちで有効活用させてもらう必要があります。そのためになすべきことは、日本とインド相互の過不足を知り、それを埋めていくことだと思います。私も引き続き、日本とインドのビジネスマッチングのフロントランナーとして、この実現のために尽力していきたいと思っています。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
simada_pr島田 卓(しまだ・たかし)
 1948年生まれ。明治大学商学部卒。72年東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。本店営業部、ロサンジェルス支店、事務管理部、大阪支店を経て、91年にインド・ニューデリー支店次長に着任。約4年間インドに駐在。97年同行を退職、同年4月に(株)インド・ビジネス・センターを設立し、現職に。東京商工会議所の中小企業国際展開アドバイザー。
 著書として、『インドビジネス脅威の潜在力』(祥伝社新書)、『スズキのインド戦略』(監訳、中径出版)、『トヨタとインドのモノづくり』(編著、日刊工業新聞社)、『日本を救うインド人』(講談社)、『インドがわかる本』(廣済堂出版)、『インドとビジネスするための鉄則55』(アルク)など多数。TV出演、講演等として、NHK「クローズアップ現代」、「Biz スポワイド」、NHKワールド「ASIA 7 DAYS」、BSフジ「LIVE PRIME NEWS」など多数。

 
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