2024年03月29日( 金 )

有森隆著『社長引責 破綻からV字回復の内幕』を読む(前)

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 企業の盛衰はトップで決まる。社長の力量と器によって企業再生に濃淡があらわれる。卓越した社長によって衰退のパターンから脱出した企業がある一方、足踏みを続けている企業も少なくない。その差はどこから生まれるのか。
 有森隆著『社長引責 破綻からV字回復の内幕』(さくら舎、本体価格1,500円)は、破綻寸前に陥った企業が、社長交代によっていかに再生に向かったかの内幕を描く。
 本書では、パナソニック、富士重工業、カルビー、ベネッセ(現・ベネッセホールディングス)、アサヒビール(現・アサヒグループホールディングス)、日本航空、塩野義製薬、西武(現・西武ホールディングス)、日立製作所の9社を取り上げている。いずれも経営が悪化し、地獄を見た企業である。
 筆者は、その中でも2人の経営者に注目した。アサヒビールにメインバンクの住友銀行(現・三井住友銀行)から派遣された村井勉氏と、深刻の経営危機に陥った日立製作所に子会社から呼び戻された川村隆氏である。

村井氏は組織の土台となる経営理念を明確化

 住友銀行副頭取だった村井隆氏は82年、アサヒビールの再建のために社長として送り込まれた。当時のアサヒはドン底だった。82年にはシェアが9.9%となり、とうとう10%を割り込んだ。「夕日ビール」と揶揄される状況でありながら、社内には現状維持で満足する雰囲気が見られた。
 村井氏が最初に取り組んだことは、社員の意識を変えるための経営理念の策定である。消費者志向、品質志向、人間性尊重、労使協調、共存共栄、社会的責任の6つの柱からなる経営理念を定め、10項目の行動規範を社員に提示した。

book 村井氏が、取締役たちに強く言ったことはただ一つ、この経営理念である。関西同友会の代表幹事として米国のジョンソン&ジョンソンに視察に行った時の経験で、経営理念は大事だと考えていた。
 これを徹底すれば、経営の方向は間違うことはない。村井氏は経営理念と行動規範をまとめた。特にマーケットインの発想を取り入れたことが、その後のアサヒの営業、商品開発の方向を決定づけた。マーケットインとは、商品の企画開発や生産において、消費者のニーズを重視する考え方だ。

 その次に村井氏が行なったことは、「企業イメージ向上計画(CI)」「全社的品質管理(TQC)」「業務効率化と事務環境整備」の三大テーマのもと、長年親しまれてきた「旭日マーク」のラベルを変え、現在の黒のロゴに大転換した。それは単なるロゴの変更ではなく、社員の意識改革の総決算を形にした。
 CI導入と並行して、アサヒはビールの味を変えた。これまでのアサヒの味とされてきた「苦み」ではなく、「コク」と「キレ」が新しい味の目標となった。ビールの味を変えることは、業界のタブーとされてきた。味を変えて従来のファンを逃がしたら、絶対に彼らは戻ってこない。それを恐れるあまり、ビール会社は従来の味にこだわり続けた。しかし村井氏によるマーケットインの発想に基づき、CI導入と新しい味によって、アサヒは挑戦的な企業というイメージが浸透していった。
 村井氏の改革が即、業績に結びついたわけではない。シェアは低空飛行を続けた。85年には9.6%まで落ちた。このままいけばサントリーに代わって業界4位に転落することは時間の問題とみられた。
 ここで住銀出身の樋口廣太郞氏が登場する。樋口氏はアサヒスーパードライを大ヒットさせ、奇跡の大逆転をもたらしたアサヒの救世主として名をとどめる。

 本書は、村井氏が基本理念を明確に社員に提示できたことが、奇跡の逆転につながったと分析している。基本理念とは、組織の土台となるグランドデザインのことだ。「われわれは何者で、何のために存在し、何をやっているのか」を示すことだ。納得できる指摘だ。

(つづく)
【経済評論家 秋月 太郎】

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