2024年04月25日( 木 )

プーチンを取るか、スーチーを取るか?注目すべき新生ミャンマーの国造り(4)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

sekai こうした改革・開放政策にとって、スーチーさんの役割は極めて大きい。外務大臣、大統領府相に加え、国家の最高顧問を兼務するスーチーさんは相次いで外国を訪問している。過去数か月の間に、中国、インド、日本、そしてイギリスやアメリカにも足を延ばし、自由で開かれた国家づくりに協力を要請して回っている最中だ。いずれの訪問先でも彼女は大歓迎を受け、確実に外交得点をあげていることは言うまでもないだろう。

 これまでアジアでも最も貧しい国の座に甘んじていたミャンマーであるが、経済活動が活発になれば国内の民主化も確実に進展するに違いない。土地の所有制に関しても整備が進んでいる。これまで世界銀行が発表した「ビジネスの環境整備についての調査」を見ると、ミャンマーは世界190の国の中で170位という結果で、ほぼ最低ランクであり、「最もビジネスがしにくい国」とされてきた。隣国のラオスや同じアジアのフィリピン、インドネシア、ベトナム等と比べても、はるかにビジネス環境が劣っていたわけだ。

 ここにきてようやく、新たな国づくりの道が開かれたと言っても過言ではない。早速、世界から多国籍企業が雪崩を打って進出し始めた。先陣を切ったのはケンタッキーフライドチキンであった。昨年、初めて第一号店をオープンさせたばかりだ。その後を追うように、コカ・コーラやネスレ、そして大手石油会社のシェル等も拠点を開設している。

 中でも通信ビジネスによる積極的な参入が際立っている。ノルウェーやカタールの通信業者が急増するミャンマーの人口に焦点を合わせ、移動通信やインターネットサービスを提供し始めた。その結果、たった1年足らずで、インターネットの普及率は10%から25%に、移動通信は20%から60%へ急拡大を遂げた。

 同国に進出間もないノルウェーの移動体通信会社テレノールは2015年1月から2016年10月までに1,500倍もの通信量に拡大したという。都市部から農村地域にもインターネット網が急速に広がっているためだ。モバイル戦国時代と呼ばれる所以であろう。

 また、ミャンマーの安価な労働力を活用しようと、今や日本をはじめ、世界の製造業やサービス業がこぞって狙いを定めている。かつて「世界の工場」と異名を取った中国が賃金や土地代の高騰により、ベトナムに拠点を奪われつつあるが、今後はミャンマーがベトナムに代わり、アジア、世界の製造業の中心に躍り出る可能性が高いと言えるだろう。

 日本からも様々な経済ミッションがミャンマーを訪ねている。日本のIT企業も優秀な人材確保にしのぎを削っているようだ。というのもミャンマー政府はITを活用した電子政府や行政サービスの効率化を目指しており、日本の経験や先端技術の導入に関心を示しているからと思われる。ミャンマーでは既に「eビザ」と呼ばれる電子手続きによるビザの発給サービスが始まった。懸念される政府の情報統制や海外企業への介入などは限定的である。

 国民性が真面目で日本との親和性が高いミャンマー。ちなみに、最高指導者のスーチーさんは若い頃、京都大学に客員研究員として1985年から86年にかけ滞在したこともあり、大変な知日派である。日本語も堪能だ。特に和食が大好物で、中でもうどん好きで知られる。

 日本社会の発展の歴史に詳しく、日本経済の歩みから教訓を得たいと考えているスーチーさん。日本にとっては得難いパートナーだ。これから日本企業がアセアンの統合市場を開拓するにあたり、ミャンマーの果たす役割は益々大きくなるだろう。ロシアの手ごわい熊を相手にするか、ミャンマーの心優しいターミンジカを相手にするか。ここは思案のしどころだ。

(了)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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