2024年03月29日( 金 )

血液検査の進化(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 これまでの血液検査は、注射針で採血をして検査をしていた。だが注射針は、子どもだけでなく、大人にとっても心理的な負担になる。
 そこで、注射針で多量の血を採血する従来の方法に疑問を持ち、微量採血で血液検査はできないかと、多くの研究者が研究を重ねてきた。微量採血に関する研究は、20数年前から行われ、論文も多数発表されているし、分析装置もできている。

 ところが、どうしてもネックになったのが、実は採血用具であった。注射針を使わずに採血を行い、採血した血液を血漿(けっしょう)と血球とに分離したうえで、安全に検査センターまで届けないといけない課題があったからだ。さらに採血量が一定でないと、検査結果にバラつきも出てしまう。

 採血用具自体は簡単そうに見えるが、そのような課題を解決するのは難しかったようだ。ところが、富士山の麓に所在する(株)雅精工(山梨県富士河口湖町)の山川勇社長は、そのような採血用具の開発に世界で初めて成功している。
 雅精工が開発した採血用具「マイクロセルフキット」は、どの角度からも血液を吸ってくれる「マイクロサンプラー」、採血した血液を血漿と血球とに分離する「マイクロコレクト」、それに「輸送容器」。この3つで構成されている。山川社長は採血用具を5年間にわたって血のにじむような努力を重ね、開発に成功。今年から販売を開始する。今回開発された採血用具は、血液検査に新風を巻き起こすに違いない。

 人間の血液の寿命は3~4カ月であり、3~4カ月ごとに体内の血液が入れ替わることになるという。今回開発された採血用具で微量血液検査が普及すれば、採血する際の注射針の恐怖から逃れられるし、簡便で、早く、低いコストで検査を受けられることになる。とくに子どもや、何度も採血をしないといけない高齢者患者にとっては、微量血液検査はまさに朗報であろう。また、高齢社会の到来により医療費の高騰で頭を抱えている政府関係者にも嬉しいニュースであろう。
 現在は、採血した血液は宅急便などで検査センターに送らないといけないが、将来は小型の分析装置で、その場で検査結果がわかるような時代になるだろう。

 また採血する代わりに、人間の体にセンサーを埋め込んで、常時血液検査ができるような研究もなされている。しかし、今はまだ常時患者をモニタリングする技術は確立されていない。もしそれができるとしたら、発症の4時間くらい前に血流に異常が発生する心筋梗塞を予測でき、病気を回避できるようになる可能性もある。

 現在でも血液検査の研究は進められていて、今まで発見できなかった血液のなかの新しい物質が見つかるようになるだろう。とくに遺伝子診断の研究も活発で、ガンの発生に関係している遺伝子などが徐々に解明されつつある。

 一方、早期ガンを発見するための腫瘍マーカーなどの検査については、検査の有用性を疑う専門家が少なくない。腫瘍マーカーで早期ガンを見つけることは、現時点では無理であり、たとえ検査の結果が正常であったとしても、ガンが存在しないことの根拠にはならないレベルだという。ガンの種類によっては、大腸ガンや子宮頸部ガンなどのように検査で早期にガンが見つかり、助かった例も多いようだが、今の段階では検査結果が絶対であると一概に言えないのが現状のようだ。

 血液検査が進化したことで、今後、微量血液検査が主流になってくると思うが、未来には採血などを必要としない検査方法が出てくる可能性も否定できない。
 微量血液検査で定期的に血液検査をすることで、いろいろな病気が未然に予防でき、皆が元気で幸せになることを祈ってやまない。

(了)

 
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