2024年03月19日( 火 )

ゲーム界の老舗は復活できるのか?(後)~任天堂(株)

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任天堂(株)

任天堂の方針転換

 任天堂は近年、大きな方針転換を行った。任天堂は「マリオ」をはじめとした世界的人気を持つ強力なIP(知的財産)を持っている。IPを最大限に使っている企業といえば、ウォルト・ディズニー社である。さまざまなディズニーキャラクターのライセンスで莫大な利益を上げていることは周知の事実だ。マリオも知名度だけならかなりのものだが、過去の任天堂はゲームを本業とし、キャラクターやグッズの展開に積極的ではなかった。しかし、ついに「任天堂IP(知的財産)に触れる人口を拡大することに注力する」と発表。大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン、米国のユニバーサル・オーランド・リゾートとユニバーサル・スタジオ・ハリウッドで同社の世界観を再現したテーマパークを展開するというリリースは驚きをもって迎えられた。他にも映像コンテンツやマーチャンダイジングを通じたキャラクターの露出の拡大などで、任天堂ゲームの世界観を広めていくとしている。


 また、15年3月には(株)ディー・エヌ・エーと資本・業務提携を発表。それまで自社のゲーム機向けにしかソフトを供給してこなかった任天堂がスマホ向けゲームアプリ市場に参戦したのである。ハード(家庭用ゲーム機)とソフト(ゲームソフト)を一緒に手がけるビジネスモデルを強みとしてきた同社にとって大きな方針転換だった。だが、これは大きな賭けではあるが、判断としては当然といえる。15年の国内家庭用ゲーム市場は3,300億円規模だが、同じ年のオンラインプラットフォーム(ゲームアプリ、フィーチャーフォン、PCゲーム)市場の規模は9,000億円を超えている。こうした傾向は世界でも同様であり、この差は今後さらに拡大すると見られている。任天堂はゲームソフトメーカーとしても世界屈指の開発力と豊富なIPを持っている企業である。この大きな市場を見逃す手はない。昨年の「ポケモンGO」の世界的ブームが、同社が持つブランド力を見せ付けたことは記憶に新しいだろう。

 本業であるハード・ソフトの一体化ビジネスと食い合うことも考えられるが、「スマートデバイス向けのゲームビジネスを展開することで、これまで当社製品を遊んでおられなかったお客様や当社製品をお届けできなかった地域での需要の創出による収益基盤の強化とビデオゲーム専用機ビジネスとの相乗効果を目指します」(ホームページの社長メッセージ)とし、IPの展開やスマホ向けゲームアプリは、現時点では本業を強化するための施策と考えていることがわかる。

 実際、同社がスマホ向けに配信しているゲームは、どれも過去に人気があった作品をそのまま持ってきたものではなくスマホ向けに新たに開発されており、作品のファン層を広げるためのコンテンツという趣が強い。事実、「ポケモンGO」配信後に過去の「ポケモン」関連ソフトの売上が上がっており、昨年11月に全世界で発売した「ポケットモンスター サン・ムーン」の大ヒットも、「ポケモンGO」効果でポケモン需要が上がっていたからだといわれている。

 このように、同社はこれまでのハード&ソフトメーカーから、開発力を持つコンテンツ企業へ進化をしている途上にあるといえる。

Nintendo Switchが持つポテンシャル

 3月3日、同社の最新ゲーム機「Nintendo Switch」(以下、スイッチ)が発売された。据え置き型ゲーム機でありながら、持ち運べるという携帯型ゲーム機の側面も持っている。そしてスイッチは、Wii Uでの失敗とスマホ向けゲームアプリ全盛の時代を踏まえた設計となっている。Wii Uはテレビと手元のタッチパネルコントローラーというアイデア自体に面白さはあったが、タッチパネル操作が基本のスマホ向けゲームアプリ隆盛のなかでは目新しさはなく、むしろテレビ画面と手元の画面の2つを見るという操作の複雑さを生んだ。また、2つの画面を連動させるという独自規格はソフトメーカーから敬遠され、ソフトが集まらない原因といわれている

 スイッチは、持ち運びできるという点でやはりスマホ向けゲームアプリがライバルになるが、ポイントは着脱できるコントローラーだ。スマホのタッチパネルでの操作は簡単だが、複雑な操作は難しいという弱点がある。スマホの性能が上がり、高度なゲームが登場するようになってきたからこそ、コントローラーで操作する本格的なゲームを楽しみたいという層も生まれてきている。スイッチのコントローラーは、本体から外して友だちに渡すこともでき、1台あれば複数人で遊ぶこともできる。持ち運んで遊べるというスマホのフィールドで、ゲーム専用機ならではの「スマホでは体験できない」ゲームを提供して勝負する算段である。

 また、これまでの任天堂ゲーム機と比べ開発機材を安く設定。ソフトメーカーへ参入を促すだけでなく、少人数の開発者が気軽にゲームを作って配信できる環境を整えるなど、Wii Uのようなソフト不足とならないような施策も行っている。

 発売後3日間での国内販売台数は約33万台(ファミ通調べ)で、3月24日現在でも売り切れ状態が続いている。海外でも売れ行きは順調で、任天堂は3月中に200万台出荷するとしており、新製品としてまずは成功といえるスタートだろう。

 だが、ゲーム機の普及率を上げるには、売上を牽引する有力なゲームソフトの早期の登場が不可欠。年内には実績のある「スーパーマリオ」と「マリオカート」の発売が決定しているが、今後のスイッチの動向を占う際にもっとも注目したいソフトは今夏発売予定の「スプラトゥーン2」だ。複数人での協力・対戦プレイが特徴で、任天堂にとって課題である海外市場で人気が高いタイプのゲームだ。店頭でイベントを行うなど、任天堂もこのタイトルには力を入れている。

 もしスイッチまで失敗することになれば、任天堂はゲームメーカーとしてさらに大きな変革を決断しなければならなくなるだろう。スイッチの出足は好調だが、市場を形成し、大きな売上を上げるまでに2~3年はかかる。今年は市場を作るための先行投資の年となるだろう。減収は続いているが、まだ財務的に体力があるいまこそ、豊富な資金を崩すぐらいの覚悟で、任天堂ブランドの新しい価値を創出しなければならない。

(了)
【犬童 範亮】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:君島 達己
所在地:京都市南区上鳥羽鉾立町11-1
設 立:1947年11月
資本金:100億6,540万円
売上高:(16/3連結)5,044億5,900万円

 

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